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作家・下重暁子さん「お金は自分で稼いで使うもの。人のお金をあてにするのがいちばんよくない」“血縁に遺産を渡さない”と遺言書に記した理由 

作家の下重暁子さん
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「お金は人からもらうのではなく、自分で稼いで使うもの。人のお金をあてにするなんて、みみっちいことをしてはいけません」。そう断言するのは作家の下重暁子さん(89才)。『家族という病』などのベストセラーで家族への依存を批判し、自立して生きることの大切さを一貫して説く彼女の「原点」は、戦後の焼け野原だ。

「私は戦争の悲惨さを体験した世代です。小学3年生のとき、戦争が終わった途端に軍国主義だった大人たちが民主主義に180度変わったのを見て、なんと情けない人たちだと思い、これから先は誰かをあてにするのではなく、自分ひとりで生きていくしかないと心に決めました。

 自分自身の食いぶちは自分で稼ぎ、その代わりに全部自分で使おうと決めたんです。自分の人生は自分で作るものです。もちろん病気だったり体が弱かったりする場合は別ですが、それ以外は必要なお金は自分の力で稼ぐべきです」(下重さん・以下同)

 近しい人との間ほど金銭トラブルが多くなる傾向も、下重さんが「人の金を頼るな」と主張する要因だ。

「東京新聞で人生相談の回答者をしているけれど、相談内容の多くは親しい人との間の金銭トラブルです。実際に私の知人も、親が死んで相続になった際、本来は均等に分けるはずなのにきょうだいの妻からいちゃもんが出て、骨肉の争いで裁判沙汰になり、最後は絶縁状態になりました。このように人のお金をあてにするとロクなことがないから、生きている間に使い切るのがいちばんです」

 そう語る下重さんは結婚直後から、夫婦間で「独立採算制」を貫いている。

下重さんは筒描きを収集しており、2014年にはフランス・パリで『藍木綿の筒描き展〜下重暁子コレクション〜』を開催した(提供/下重さん)
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「結婚したからといって、経済も一緒になるわけではなく、私は人生で誰かに養ってもらったことはありません。夫のお金の使い道には一切干渉せず、自分の分は使い切ると最初から伝えてあります。夫もそういう考えなので、障害はありません」

 昨年米寿を迎えた下重さんは、この先も好きなことにお金をかけるという。

「江戸時代から続く染め物の技法の『筒描き』を使ったコレクションが好きで、骨董品店や古い美術商から買って展覧会をしています。お布団や風呂敷、暖簾などあらゆる日用品に使われ、濃淡のある藍色が美しい。旅行も好きで毎年パリに行きますが、体が動くうちにもっと海外を訪れたい。この先も日本人が大切にしてきた美的センスを大事にしたいと思っています。

 自分の望むお葬式ができる分のお金を残し、あとは使い切るつもりです。母が好きで私も集めた着物は誰かに受け継いでもらいたいと思っています。私が亡くなってから周囲が揉めないように大雑把な遺言書もすでに作成してあり、筒描きのコレクションは売るのではなく美術館などに寄付するつもりです」

 下重さんには子供がいない。血縁はいるが、自分の足で立ってほしいと思っている。

「何もしないと私の遺産の一部が法的に渡るらしいのですが、何かを残すつもりはありません。人生は自分で切り開くものであり、人のお金をあてにするのがいちばんよくない。だから私の遺言書には、血縁に遺産を渡さないよう記してあります」

【プロフィール】
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/1959年に早稲田大学を卒業、同年NHKに入局。アナウンサーとして活躍後、1968年にフリーとなり、文筆活動に。著書に『家族という病』など多数あり、日本ペンクラブ副会長などを歴任。

女性セブン2025111320日号

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