健康・医療

【「健康寿命」「見た目年齢」を保つための生活習慣】“老いない眠り”のポイントは「副交感神経を優位にすること」、腹式呼吸を意識することで衰えた細胞も回復

健康を維持するための生活習慣とは(写真/PIXTA)
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 誰もが必ず年をとり、老いは必ずやってくる。人生120年時代が近づくなか、年齢を重ねることを楽しむか、苦しむかは長い老後を過ごす際の重要なポイントになる。超高齢社会の大きな課題は平均寿命と健康寿命の乖離だ。最期まで体と心の健康を維持してピンピンコロリを実現するには、「老化」の“真実”を知り、日常生活で実践できる「老いないメソッド」を身につけることが分岐点になるのだ。【前後編の前編】

 40代、50代を過ぎて感じる老いは体の至るところに現れる。「太りやすくなった」「しわが目立つ」「関節が痛い」「髪にハリがなくなった」。一方、友人やテレビに映る芸能人を見て「同じ年なのにどうしてあんなに若々しいのだろう」と思うこともあるだろう。誰しも平等に年齢を重ねるが、老化は必ずしも平等ではない。では、そもそも老化はどのように進むのか。

『増量版 80歳でも脳が老化しない人がやっていること』の著者である、脳科学者の西剛志さんは「老化には2つの要因があります」と指摘する。

「大きく分けると、生まれつきの遺伝的要因が6割、生活習慣などの環境的要因が4割とされます。

 遺伝的要因の老いは予防が難しいですが、環境的要因の老いは生活習慣の改善でゆるやかにできるものが多くあります」

 米ハーバード大学医学部客員教授で医師の根来秀行さんが注目するのは「老化細胞」だ。

「老化は、糖化や酸化、炎症により細胞がダメージを負うことで促進されます。基本的に細胞は分裂できなくなったり機能が低下したりすると自ら死滅しますが、なかには衰えても体内に居座る細胞がいる。こうした『老化細胞』が炎症やがんを引き起こすさまざまな物質を分泌し、周囲の細胞の老化を促すことがわかっています」(根来さん)

 他方で根来さんは、西さんと同様に「防ぐことができる老化がある」と語る。

「老化には、加齢により誰にでも起きる『生理的な変化』と、不規則な生活や環境的要因などが加わって起きる『病的な老い』の2つがあります。このうち病的な老いは、睡眠や食事など毎日の生活に気を配り、老化細胞にストレスを与えないことで老化の進行が緩やかになるのです」

 西さんと根来さんがともに強調する「生活習慣の見直し」はどのように行えば、老いの進行を緩やかにし、いつまでも若々しく、健康寿命を延ばすことができるのだろうか。

 私たちの暮らしと密接にかかわる8つの分野で若々しくいるための「老いない」生活習慣を、名医たちに聞いた。実践する際に気をつけるポイントとともに伝授しよう。

老いない眠りのキーワードは副交感神経

 まずは人間の生命と健康を維持するために欠かせない睡眠。体と心が老いない眠りを実現する最大のポイントは、「副交感神経」を優位にすることだ。

「無意識のうちに体を制御する自律神経は、心拍数を上げて活動的になる交感神経と心拍数を下げてリラックスする副交感神経の2つが交互に働いています。

 睡眠時に副交感神経が働くと全身がリカバーされて老化を防ぐので、副交感神経が優位になる睡眠環境を心がけることが大切です」(根来さん・以下同)

 眠りの質を高めることも老化防止に役立つ。

「睡眠環境を整えて眠りを深くすると、抗酸化作用が非常に強いホルモンであるメラトニンが体の酸化を防ぎます。また、体をリカバーする成長ホルモンがしっかり分泌されて老化を防ぐのです」

若々しくいるための老いない生活習慣(睡眠・呼吸)
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 メラトニンの分泌を増やすなどで老いを防ぐ快眠を実現するためにも、別掲表のリストにあるような就寝時間や就寝前の準備が重要になる。

 私たちが普段、自然に行っている呼吸も老化を防ぐカギとなる。

「呼吸時に鼻や口から入った酸素はヘモグロビンとくっついて、大動脈から静脈、毛細血管を通じて全身の細胞に届けられます。その際にただ酸素を取り入れるのではなく、呼吸の仕方に気をつけることで、全身の回復を促すことができます」

 老化を防ぐ呼吸の基礎となるのが、息を吸うときにお腹が大きく膨らみ、息を吐くときにお腹がぺったんこになる「腹式呼吸」だ。

「腹式呼吸でゆっくりと息を吐く際に横隔膜が緩んで、自律神経の副交感神経が優位になります。すると心身がリラックスして全身の末梢にいたる毛細血管の血流が促進され、衰えた細胞が回復するのです」

 普段から呼吸をする際は、胸の筋肉だけを動かして呼吸する胸式呼吸ではなく、お腹が膨らんでへこむ腹式呼吸を意識したい。

 呼吸と健康長寿の関係の専門家である根来さんは、ほかにもさまざまな呼吸法を紹介する。リストを参照して、“不老の呼吸”をマスターしよう。

 健康長寿を実現するには歯のケアも欠かせない。特に歯周菌が増殖して起こる歯周病は歯を失う原因になるだけでなく、菌が血液に乗って全身に回り、糖尿病や動脈硬化、認知症やがんなど重篤な疾患を招く怖い存在だ。

 歯科医・歯学博士で東京科学大学非常勤講師の照山裕子さんが指摘する。

「歯周病菌は酸素を嫌うため、歯の表面ではなく歯と歯の隙間や歯周ポケットという溝にすみついて増殖します。歯磨きをしても歯周病が減らない大きな理由は、この隙間や溝をしっかり掃除できていないことです。

 歯間ブラシを利用するなど歯の磨き方を工夫して徹底的に掃除すれば、歯周病によるトラブルを防ぐことができます」

 特に夜の歯磨きはいちばん丁寧に。また歯ブラシは歯の部分は普通の硬さ、歯茎ケアには粘膜を傷つけないよう柔らかめがいいと照山さんは言う。

「虫歯のリスクはブラッシングや歯磨き粉に気をつけることで軽減できます。

 また、加齢とともに増える誤嚥性肺炎や口の乾燥などの予防にも日頃から口まわりの筋肉を総合的に鍛えることが欠かせません」(照山さん)

若々しくいるための老いない生活習慣(歯)
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(後編に続く)

女性セブン20251225日・202611日日号

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