【医師が選ぶ“本当に頼れる病院”】『胃がん』では「術後の生活の質を落とさない治療法の提案」も重要 “総合力”が試される『食道がん』では「サルベージ手術の経験」が病院選びの目安に

日本人の2人に1人が患うといわれる「がん」だが、医療の発達により、治療すれば完治が見込めるようになった。しかし、病院選びを誤れば、術後に生活を揺るがす支障が残ることがある。数ある医療環境の中で、不安に寄り添い一緒に「根治」を目指してくれる病院と出合うために、私たちが知っておくべきことを◦ジャーナリスト・鳥集徹氏と本誌・女性セブン取材班が徹底取材した。
今回、本誌に過去に登場した名医を中心に、「もし自分や家族がその病気になったら、どの病院で治療を受けたいか」についてアンケートを実施。信頼できる全国の病院を疾患別にリスト化した。加えて、診療方針や最新医療について取材し、「どんな病院なら信頼できるか、信頼できないか」も尋ねた。ここでは、「胃がん・食道がん」を取り上げる。最初の病院選びを間違えると、大きな後悔をしてしまう。ぜひ記事を熟読して、「病院選び」の知識を身につけてほしい。【第3回】
【胃がん】逆流を防ぐ手術で体重減少を抑える
胃がんの罹患者数は減少傾向にあり、現在、女性におけるがん死亡数では5番目だが、年間約3万6000人の女性に見つかる侮れないがんだ。
大腸がんと同様、粘膜に留まる早期であれば内視鏡で取り除くこともできる。胃の不調が続く人やピロリ菌に感染したことのある人は、定期的に内視鏡検査を受けるといいだろう。
胃がんでも腹腔鏡手術が普及しており、さらに近年はロボット手術を手がける病院が増えた。大阪けいさつ病院消化器外科主任部長の大森健医師が話す。
「当院では、早期がんから進行がんまで幅広くロボット手術を採用し、AIで術後評価と手技の改善ができる最新機器もいち早く導入しています。かつてなら、がんの進行による強い癒着のため、胃とともにすい臓も切り取らざるを得ないことがありました。
しかしロボット手術では、立体的な視野と精密な操作により、癒着を丁寧に剝がすことができます。他臓器を温存できる可能性が大きく高まったことが、この手術の恩恵の1つと言えるでしょう」

近年は、食生活の欧米化により、食道と胃の境目に発生する「食道胃接合部がん」が増えた。
胃の入り口のみを切除する手術が一般的だが、胃は残る一方で逆流が起こり、胸やけや痛みで食事がとれなくなることがある。大森医師が続ける。
「当院では、逆流を防ぐための独自の『逆流防止弁』形成術を開発しました。体重減少が抑えられ、さらに抗がん剤治療も続けやすくなる。結果的に術後経過の改善が期待できます」
胃がんのもう1つのトピックは、術前に抗がん剤治療を行って腫瘍を小さくしてから切除する「コンバージョン手術」が進歩していることだ。
この実績が日本で最も多い国立がん研究センター東病院胃外科科長の木下敬弘医師が解説する。
「これまでアジアでは、進行がんの患者さんは術後に抗がん剤治療を行うのが主流でした。
しかし、胃を切除すると体力が落ちるので、強力な薬物療法をしようとしても限界がある。やはり欧米のように体力のある術前にやるべきだとシフトしていったのです」
術前なら腫瘍が縮小するかどうか直接確認ができ、適切な薬の選択がしやすくなる。さらに腫瘍が小さくなれば、従来なら胃全摘だった患者が胃の一部や機能を温存できるようになる。木下医師が言う。
「術後の生活の質をなるべく落とさないことが患者さんにとっては重要です。そのためにも、腹腔鏡やロボットでお腹の傷をなるべく小さくするとともに、胃の全摘を避けることが大切だと考えています。
当院は腫瘍内科も有名で、従来の化学療法薬に加え、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の臨床試験にも数多く取り組んでいる。その人に効果的な薬を調べるバイオマーカーの検査も進んでいるので、今後さらに胃を残せるチャンスが増え、生存期間が延びると期待しています」
従来の術式や治療にとらわれることなく、さまざまな治療法を提案してくれる病院を選ぶのがよいといえるだろう。