
日本の豊かな土壌と水が生む酒粕は、腸内環境を整え健康を支える“一石万鳥”のスーパーフードだった――。奈良時代から親しまれる発酵食品の驚くべきパワーと、栄養成分を生かすおいしい食べ方を紹介する。
発酵パワー栄養成分が凝縮
季節の変わり目で寒暖差が激しくなる春は、自律神経が乱れやすく、体のだるさや肌の不調を感じやすい。そんなときに取り入れたいのが、日本伝統の発酵食品である「酒粕」だ。
あいこ皮フ科クリニック院長の柴亜伊子さんは言う。
「酒粕は日本人の体に合う優秀な食材で、古くから親しまれてきました。栄養価が高く、美容や健康、ダイエットにも効果的なので、私のクリニックの患者さんにもおすすめしています」
そもそも酒粕とは、日本酒を造る工程で生まれる発酵食品。合同会社酒かす研究所代表で管理栄養士のさけかす子さんが解説する。
「蒸した米と米麹、水を合わせて発酵させると『もろみ』ができます。これを搾った液体部分が日本酒で、残った固形部分が酒粕となります。
発酵には主に麹菌と酵母菌がかかわっており、製法によっては乳酸菌が加わることもある。多様な菌の働きによって作られている点が、酒粕のいちばんの魅力です」

こうしてできた酒粕は、単なる“日本酒の搾りかす”ではない。米由来の栄養成分がぎゅっと濃縮され、発酵によって生まれたさまざまな有用成分が含まれる。
「酒造りのための清酒酵母が生み出す特有の成分もあり、ほかの発酵食品と比べても栄養価が非常に高い。
さらに、発酵過程で麹や酵母が糖質を分解してくれるため、お米由来の食品でありながら血糖値が上がりにくいのも長所です」(柴さん・以下同)
栄養を代謝し、エネルギーに変えるために欠かせない「ビタミンB群」も豊富に含まれている。
「特にたんぱく質合成に不可欠なビタミンB₆は、レバーに匹敵するほどです。ほかにも、血圧上昇を抑制するペプチドや、血流を促すアデノシンも含まれており、高血圧対策や冷え症改善にも働きます」
豊富な食物繊維で腸デトックス
腸にうれしい成分も盛りだくさんだと話すのは、さけかす子さんだ。
「食物繊維はごぼうと同じくらい豊富で、便通改善が期待できます。さらに、麹を使った発酵食品の多くに含まれるグルコシルセラミドは、善玉菌のエサになることで、腸内環境を整えることが期待できます」
腸内環境が整うことで免疫バランスが調整され、アレルギー症状を抑える効果も見込まれている。
加えて注目したいのは、食物繊維と似た働きを持つレジスタントプロテイン(難消化性たんぱく質)のデトックス効果だ。
「体内で消化されにくい成分で、腸内の余分な脂質やコレステロールを吸着し、排出する働きがあります。実際、50gの酒粕、水、甘味料を加え、加熱して溶かした酒粕甘酒を3週間毎日飲み続けると、便通が改善し、善玉コレステロールが増えたという報告もある。腸活には最適な食材といえるでしょう」(さけかす子さん)
さらに、酒粕の恩恵は整腸だけにとどまらない。
「酒粕は動物性たんぱく質並みのアミノ酸を含んでいます。中でも筋肉の保持に必要な必須アミノ酸が豊富で、摂取すると基礎代謝が上がりダイエットにも効果的です。
旨み成分であるα-EG(α-エチル-D-グルコシド)は、肌のコラーゲン産生を促して、ハリのある肌に導いてくれます。さらにグルコシルセラミドには肌のバリア機能の調整や保湿作用もある。まさに古来からの知恵がつまった“スーパーフード”です」(柴さん)
酒粕といっても形状はさまざまで、どれを選べばいいのか迷う人も多いだろう。さけかす子さんは、まずは好みで選んでほしいとアドバイスする。
「板状の『板粕』、バラバラの『バラ粕』、ドロッとした『ゆる粕』など見た目や形状の違いもあれば、熟成させて風味が強くなるなど味にも違いがあります。蔵元や造り方によって風味やアルコール度数が変わるので、いろいろ試してみてください」
板粕は強く搾られているため、成分が凝縮されて旨みが強く、料理に使うとコクが出やすいのが特徴だ。
「チーズのような風味があるので、ヴィーガンチーズとして使われることもあります。バラ粕やゆる粕は水分が多く、すぐに溶けるので手軽に使いやすい。酒粕の香りが苦手な人は、醸造アルコールが添加されていない『純米』を選んでみてください。中でも『純米大吟醸』は雑味が少なくて食べやすい酒粕が多いです」(さけかす子さん・以下同)
料理にちょう足しで善玉菌を活性化
加熱処理されていない生の酒粕には生きた菌が含まれる一方で、約8~10%のアルコール分も含まれる。生のままの方が多く摂れる栄養素もあるが、加熱して食べるのが基本だ。
「加熱すると菌は死んでしまいますが、死菌は善玉菌のエサとなります。菌自体の成分に有用成分が含まれているので、加熱しても酒粕のパワーは充分に発揮されます。また、酒粕に含まれるビタミンB₆やレジスタントプロテイン、グルコシルセラミドなどの栄養成分は、比較的熱に強いといわれています。
食べ方のおすすめは、定番の粕汁。野菜やきのこの食物繊維も一緒に摂ることができて、さらなる整腸効果が期待できます。シチューや煮物、お肉の漬け込みなど普段の料理にちょい足しするのもおすすめです」

ただし、酒粕は栄養価だけでなくカロリーも高いので注意が必要。一度にたくさん食べるより、毎日少しずつ摂るのが理想だ。
美肌目的で肌に塗ったり、お風呂に入れたりするのは避けた方がいいという。
「酒粕は食べてこそ真価を発揮する食材です。食品を直接肌に使うとアレルギーを引き起こすリスクがあり、皮膚トラブルの原因になるので注意です」(柴さん)
フレッシュで香り高い酒粕が手に入るのは、新酒の仕込みが終わる4月頃まで。旬を逃さず、毎日の食事に取り入れてみては。
※女性セブン2026年3月26日・4月2日号