
値上げが常態化し、節約が日常になったいま、スーパーで買い物をするならできれば1円でも安いものをと思う一方、頭をよぎるのは「安かろう悪かろう」。安い食品ばかりを食べているせいで健康を害してしまっては元も子もない。だがしかし、「高ければ安心」とも限らない。スーパーに並ぶ食品の価格のからくりを専門家が解き明かす。【前後編の前編】
安いからといって添加物が多量に使用されているとは限らない
長引く物価高騰の終わりが見えてこない。帝国データバンクによれば今年6月には飲食品だけで1932品目の値上げが予定されており、食費はますます家計を圧迫しそうだ。
スーパーに並ぶ食品は、見た目も内容量もほとんど変わらないのに価格に差があるものがほとんどで、価格を商品選びの基準にしている人は多い。都内在住の主婦Yさん(64才)が言う。
「なんでもかんでも高くなっているので、できるだけ安いものを選んでしまいます。安いのは外国産で危ないとか、添加物を使っているとか言いますが、はっきり言って安さには代えられません」
しかし、数十~数百円のわずかな差額が「品質の差を表すとは言い切れない」と話すのは、食養生アドバイザーのあるとむさんだ。
「安い=危険、高い=安心とは一概には言えません。品質にこだわっていても、製造技術や物流システムを工夫してコストを抑え、低価格を維持している商品もあります。大切なのは安さの理由。価格だけで判断するのではなく、原材料や製法、メーカーの姿勢まで含めて選ぶ視点が必要です」

つまり、安いからといって添加物が多量に使用されているとは限らない。また逆もしかりだ。生そば323円と乾そば225円、生パスタ376円と乾パスタ280円は、ともに生麺の方が価格が高く、パッケージはこだわりを感じる高級感のあるものが多いが、「安全なのは安い乾麺です」と立命館大学生命科学部教授の久保幹さんが言う。
「生麺は水分を多く含み、乾麺に比べるとカビやすいため、食品添加物のひとつである保存料が使われることがほとんど。乾麺の方が安いのは、添加物を使わずとも賞味期限を長くできるからです」
同じ国産でも価格が異なる理由
逆に調味料を選ぶ際は、価格が「本物」か「偽物」かを表しているかもしれない。本みりん417円とみりん風調味料204円は似て非なるものだ。管理栄養士の麻生れいみさんが言う。
「本みりんは、もち米、米麹、アルコールを長期間じっくり糖化、熟成して造られます。一方、みりん風調味料はブドウ糖や水あめなどの糖類、米、米麹、うまみ調味料、香料などをブレンドし短期間で作られる別物です。みりんに風味を近づけるため添加物が入っていることもあります」
国産白菜キムチ323円と国産白菜キムチ189円は、一見すると価格以外の違いはないように見えるが、ファイナンシャルプランナーで管理栄養士の風呂内亜矢さんは注意を促す。

「発酵させたキムチなのか、調味料や添加物で“発酵風”にしているのかの違いが価格に出ます。健康のために発酵食品を食べているつもりが、実は発酵による効果は期待できなかったということも起こりえます」
見分けるためには食品のパッケージや食品表示を確認しよう。キムチと同様、“どちらも国産だから”といって油断できない食材はほかにもある。加工食品ジャーナリストの中戸川貢さんが言う。
「国産大豆の木綿豆腐181円と国産大豆の木綿豆腐106円の価格の差は、豆腐を固めているのが天然のにがりなのか、人工的な凝固剤なのかの違いです。成分表示に『粗製海水塩化マグネシウム』または『塩化マグネシウム含有物』とあれば、海水を煮詰めて作るにがりなので安全ですが、『塩化マグネシウム』とある場合は人工的な凝固剤です」
安全性に問題はないが、人工の添加物を避け、大豆本来の風味を味わうなら塩化マグネシウムでないものを選ぼう。添加物による価格の違いは飲料にも表れる。麦茶2ℓ160円と麦茶2ℓ96円、どちらを買うか迷ったら、これも成分表示の確認が必須だ。
「大麦と酸化防止用のビタミンCのみなら問題ないですが、安いものは乳化剤や香料が含まれていることが多いです。ただ、安い商品の中にもしっかりと品質管理されているものもあるので、大麦が国産かどうか、余計な添加物が入っていないかを確認してください」(あるとむさん・以下同)
もちろん店頭にある以上、基準値を超えた添加物が使用されていることはないが、日常的に食べる食品であれば気をつけたい。
「添加物の摂取量や種類、そして体質によっては、長期的に摂取し続けることで体調に影響を感じる人もいます。たとえ科学的に安全とされていても、体に合わないと感じる人がいるのも事実です」