
終わりの見えない値上げに、高止まりを続ける物価、備蓄米が放出されてなお値段が下がらず市場に充分な数が並ばないままの米。海外に目を向ければ、トランプ米大統領が拳を振り上げる関税政策で世界経済は大混乱に陥っている。一見すると関連のないように思えるこの事象は実はつながっており、国内外のピンチが掛け合わさって私たちの食の安全を脅かしている。今後、輸入量が増加すると見られているアメリカ産食品だが、厚労省の「輸入食品監視統計(2023年度)」によると、輸入に際して日本の食品衛生法に違反した国別の事例は、アメリカはトップの中国(206件・27%)に次ぐ第2位(100件・13.1%)だった。アメリカ産食品は、安全性の面で不安が残るのだ。【全3回の第3回。第1回から読む】
9割以上の輸入食品が検査をスルーして日本に上陸
本来なら危険な食品を水際で食い止めるはずの検査体制の脆(もろ)さも問題だ。厚労省の「輸入食品監視統計」によると、2023年度に235万件だった食品輸入に対して検査件数は20万件弱と、率にして8.5%だった。食の安全に詳しいジャーナリストの小倉正行さんが指摘する。
「実に9割以上の輸入食品が検査をスルーしています。しかも違反の可能性が低いと考えられる食品を対象にしたモニタリング検査では、結果を待たずに輸入できるため、違反が判明したときには市場に流通しているケースもある」
アメリカ産食品の輸入が増えれば検査率が下がり、危険な食品が見逃されるリスクが増す恐れがある。食品問題に詳しい消費者問題研究所代表の垣田達哉さんが指摘する。
「輸入量が増えれば検査に時間がかかりますから、現状で約8%の検査率を約7%に落とそうという選択肢も充分に考えられます。当然、精度も落ちるでしょう」
さらなる不安要素が、トランプ政権のロバート・F・ケネディ・ジュニア保健福祉長官が「アメリカを再び健康に」をスローガンに推し進める政治運動だ。京都大学大学院人間・環境学研究科准教授の柴山桂太さんが指摘する。
「もともと健康意識が高いケネディ氏は、農薬や添加物などにまみれた危険な食品からアメリカ国民を遠ざけようとしています。ただしその分、アメリカで規制された食品をさばくため日本に目をつけるかもしれません。これまで日本がアメリカの農業や食品業界のはけ口にされてきた歴史を考慮すれば、日本は注意すべきです」

東京大学大学院農学生命科学研究科教授の鈴木宣弘さんも「アメリカの意向」に警戒心を強める。
「ケネディ氏の活躍でアメリカ国内の食の安全は確保されるかもしれません。しかしレモンやじゃがいもの歴史を振り返れば、アメリカ国内で売れなくなった食品を日本に売ることで、アメリカ人が健康になる半面、日本人が不健康になる恐れが充分にあります。輸入大国アメリカにとって日本は『ラスト・リゾート(最後の楽園)』なのです」
なにより、こうした輸入食品にNOを突き付けなければ、日本の農業は死にゆくばかりだ。
「なし崩し的にアメリカ産食品を輸入すれば日本人の健康が脅かされるだけでなく、農家や酪農家が壊滅的な状況になり、食料自給率がどんどん下がってアメリカ依存が高まります。
そうした危機を回避するには、科学的に完全な証拠が揃っていなくても健康や環境生態系に重大な影響を及ぼす可能性がある輸入食品には、予防的に対策を取る『予防原則』に基づいた対応が求められます。国民の食の安全を守るため、日本政府は責任をもって対米交渉に臨んでほしい」(柴山さん)
危険なアメリカ産食品から身を守るため、私たちにできることは何だろうか。食品問題に詳しい消費者問題研究所代表の垣田達哉さんが指摘する。
「まずはラベルを見て、産地をチェックする習慣をつける。値段の問題はありますが、輸入品のさまざまなリスクを避けて持続可能な生産体制を築くために、なるべく国産の食品を選んでほしい」
自分や家族の健康を守ることが国を守ることにつながる。いまこそ食の安全と未来への関心を高めたい。


※女性セブン2025年6月19日号