腹部に脂肪がついていると、やせていても脳卒中や心臓病のリスクが高くなり、再発リスクまで上げることが最新の研究で明かされた。年齢、性別、体質を問わずたまっていく「内臓脂肪」は、放置すると命の危機に。しかし、ちょっとその気になれば簡単に落とせるのだ。
内臓脂肪と皮下脂肪の違いは?
最近、ズボンやスカートが急にきつくなったと感じている人は「内臓脂肪」をたっぷり蓄えている危険性が。
内臓脂肪研究の第一人者で、栗原クリニック東京・日本橋院長の栗原毅さんが説明する。
「体につく脂肪には2種類あります。腰まわりやお尻など皮膚のすぐ下に脂肪がつく『皮下脂肪』と、胃や肝臓などの内臓のまわりにたまる『内臓脂肪』です。主に腸の周辺につくので、いわゆる“ポッコリお腹”の原因になります。
なかなかつかない皮下脂肪に対し、内臓脂肪はつきやすいという特徴がある。しかし、その分、落ちやすい脂肪です。2か月あればスッキリ落とすことも可能です」
内臓脂肪は命を脅かす危険な脂肪
ダイエットの前に理解しておきたいのは、脂肪には体にとって大切な役割もあるということ。管理栄養士の麻生れいみさんが解説する。
「脂肪には、エネルギーの貯蔵、ビタミン吸収の促進、女性ホルモンや男性ホルモンの原材料に使われるなどの働きもあり、健康のためには多少の脂肪は必要です。とはいえ、限度がある。BMI値(肥満度を表す指標)が25以上、女性なら腹囲(へそまわり)が90cm以上あると、内臓脂肪がたまっている恐れがあります」
増えすぎた内臓脂肪はスタイルを悪くするだけでなく、重大な健康被害をもたらす。麻生さんが続ける。
「内臓脂肪が蓄積すると、“やせホルモン”とも呼ばれる物質の『アディポネクチン』が減って、インスリンの効きが悪くなる。そのため、糖尿病や動脈硬化になりやすくなります。また、血栓を発生しやすくする『PAI-1』という物質も増え、心筋梗塞や脳卒中などの命にかかわる病気のリスクが高まります」
アディポネクチンには、がん細胞の増殖を抑える働きもある。つまり、内臓脂肪を蓄えていると、がんリスクも上がってしまうのだ。
食事は”食べる順番”を意識して!
太りやすさは個人差がある。その違いの1つは基礎代謝量だ。特別な運動をしなくても、呼吸や体温、内臓を温かく維持するために、常にエネルギーが消費されている。筋肉量が多いほど基礎代謝が高く、やせやすいのだが、日本人女性は“世界一太りやすい残念な体質”だという。
「日本の女性は、世界で最も筋肉量が少ないといわれています。そのため低体温で代謝が悪い。運動不足であることに加え、肉や魚などのたんぱく質の摂取量が少なく、筋肉の原料になる『アルブミン』が慢性的に不足しているのです」(栗原さん)
見た目がスレンダーだからといって、自分には余分な内臓脂肪がついてないという過信は禁物だ。
「“隠れメタボ”といって、腹囲とBMIの数値が正常でも、血圧や血糖、脂質に異常な数値が表れる人もいます。その場合、内臓脂肪がたっぷりついている恐れがある」(麻生さん)
運動不足や過食を続けていれば、年齢や体質を問わず誰でもつくのが内臓脂肪なのだ。そして、それはカロリーオーバーの証拠。まずは、食べる量を減らすところから。
「女性なら1400~2000kcalが目安です。糖質を減らし、たんぱく質が豊富な肉や魚、大豆などを積極的に食べてほしい」(栗原さん)
食べる時間や順序にもポイントがある。麻生さんが話す。
「血糖値が急上昇しないよう、まずは野菜から食べる。酢にも血糖値の上昇を抑える効果があるので、酢のものなどもいいでしょう。脂肪を燃やす成分のアディポネクチンが含まれる玄米やひじきもおすすめです。冷たいものを食べすぎて内臓が冷えると、内臓を温めるために脂肪を蓄えようとするので気をつけて」
就寝中は体が脂肪をため込む働きが活発になるため、寝る3時間前までには夕食を終わらせ、内臓を休ませたい。
しかし、食べてはいけないとがまんするほど、失敗するのがダイエットというもの。思わず好物を食べてしまっても、落ち込むことはない。
「ほかの日に摂生していれば、週に1日くらい食べすぎても問題ありません」(栗原さん)
その時は、できるだけ内臓脂肪にならない食品を選びたい。栗原さんが続ける。
「ポイントは糖質の少なさと“油分”です。油が多いものは胃で吸収されにくいため、内臓脂肪になりにくい。ケーキと和菓子なら、断然ケーキの方がいい。ラーメンも、しょうゆととんこつなら、油分の少ないしょうゆの方が吸収されやすいため、とんこつより内臓脂肪になりやすい。ヘルシーなイメージの果物も、体に吸収されやすい『単糖類』のため食べすぎは厳禁です」
ダイエットは無理をするより、長く続けることが重要。ストレスで暴飲暴食を起こさないよう、メリハリをつけながら、おいしく、節度ある食生活を心がけたい。
内臓脂肪を減らすには有酸素運動が効果的
食事と並行して運動を行えば、効果はてきめん。日本体育大学体育学部准教授の岡田隆さんは、内臓脂肪を減らすためには有酸素運動が効果的だと言う。
「筋トレではエネルギー源として体内の糖質を消費しますが、有酸素運動では脂質をエネルギー源とします。つまり、内臓脂肪を狙って落とすなら、有酸素運動の方がいい」
有酸素運動は、20分間続けると、脂質が効率よく燃焼し始める。運動の強度は、ウオーキングなら息が上がりすぎず、ギリギリ会話できるくらいが理想だ。
「皮膚に近いところにつく皮下脂肪は冷えやすいため、お風呂やマッサージで血行をよくするとやせやすくなるのですが、内臓脂肪は腹筋の内側にあって常に温かく保たれているので、温めても意味がありません」(岡田さん)
内臓脂肪には、表面から温めるのではなく、筋肉量を増やして代謝をアップする方が効果的。筋トレをすれば、食べたもののカロリーを“なかったこと”にしてくれるかもしれない。
「腹筋を鍛えても、内臓脂肪には効果がありません。それよりも、お尻や太もものような体積の大きな筋肉を使う方が、エネルギーを多く消費してくれます」(岡田さん)
内臓脂肪を撃退する筋トレ「グッドモーニング」のやり方
下半身を鍛える筋トレといえば「スクワット」だが、回数を重ねるのがつらい人も多いだろう。
そこで、スクワットより簡単にできる「グッドモーニング」というトレーニングを日常的に取り入れてほしい(下イラスト参照)。
【1】ひざを軽く曲げ、背筋を自然に伸ばして立つ。
【2】まっすぐな背筋を保ったまま、両手を万歳し、足のつけ根からゆっくりおじぎするように上半身だけ傾ける。この時、上半身を丸めたり反らしたりすると腰を痛めるので注意。
「運動をするなら朝が最適。一日のはじめに代謝を上げておくと、その後も継続して脂肪が燃えやすい体になります。仕事のあとに運動をする場合は、睡眠の質を落とさないよう、寝る3時間前には終わらせて」(岡田さん)
薄着になる前に、スッキリへこんだお腹を取り戻したい。
イラスト/飛鳥幸子
※女性セブン2020年2月13日号
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