血液は、大人1人につき約5リットル。24時間休むことなく体中をめぐり、酸素や栄養、熱を届け、老廃物を回収する働き者だ。あなたのすべては、血液にかかっていると言っても過言ではない。血液はダイエットにも大きく関係しているという。
やせていてもコレストロール値が高い人が増加
もし、あなたが今日までずっとスリムな体形を維持してきているとしても、過信してはいけない。
確かに、かつては肥満の人ほどコレステロール値が高い傾向にあった。しかし、2018年に滋賀医科大学が発表したデータによると、この30年間で、標準体重であっても、血中の総コレステロール値が高い人が増えてきているという。
◆遺伝が隠れ肥満の原因のことも
その主な原因は、糖分や脂肪分の多い欧米型の食生活だと考えられる。一方で、こうしたかくれ肥満の原因は、遺伝的なものであることも少なくない。さくら総合病院循環器センター長の梅津拓史さんが指摘する。
「やせていて、血圧や血糖値が正常でも、血中コレステロール値だけ高い人がいます。『家族性高コレステロール血症』といって、先天的にコレステロール値が高いのです。この場合、もともと血糖値が高かったり喫煙習慣があったりすると、動脈硬化のリスクがさらに上がります」
むしろ、やせているからこそ、こうした危険に気づきにくいのだ。
女性は50代で内臓脂肪が増えやすくなる
さらに、女性は50代になると、ホルモンバランスの変化によって内臓脂肪が増えやすくなり、これも血液と深い関係がある。
「女性は、若い頃は皮下脂肪が多く、男性に比べて内臓脂肪が少ない傾向にあります。 しかし、閉経を迎えて女性ホルモンが減少すると、皮下脂肪の量はそのままでも、内臓脂肪が増えていく傾向があるのです」(梅津さん・以下同)
◆運動習慣がないと基準値以下でもメタボの可能性
女性は、へそのまわり(腹囲)が90cm以上、もしくは「血圧」「血糖値」「中性脂肪または善玉コレステロール値」のうち2つ以上が基準値以上になると、メタボリックシンドロームと診断される。しかし実際は、この条件にあてはまらない人ほど、注意が必要だ。
「40才頃までの女性は、腹囲が90cmの人の内臓脂肪は、約100平方cmほどだと考えられています。しかし70才を過ぎると、内臓脂肪が100平方cmある人の平均腹囲は85cm。50代以降で運動習慣がないなら、腹囲が90cm以下でも、メタボの可能性があります」
血液ドロドロも太る原因に
同じくメタボの診断基準の1つである中性脂肪にも注意したい。血中の中性脂肪の値が高い状態が続くと、血液がいわゆる“ドロドロ”の状態になり、どんどん太りやすくなる。
◆血管プラークが血流低下を促進
「中性脂肪が増えることで、内臓脂肪も増えることがあり、内臓脂肪細胞は血管内皮細胞と同じく、血液をサラサラにする線溶系の働きを阻害する因子を出します。その結果、血液が固まりやすくなり、血管内に脂質や細胞の死骸が固まってできた『血管プラーク』ができ、血流がさらに悪くなるのです」
見た目はやせていても、知らず知らずの間にドロドロの“太りやすい血”になっているかもしれない。
血行不良だと太る理由
だが、“やせる血液”を手に入れるためには、血液をサラサラにするだけでは不充分だ。重要なのは、血行をよくし、サラサラのきれいな血液を“たっぷり”全身に届けることだ。
血液は、体中に酸素や栄養を運び、二酸化炭素や老廃物を回収している。同時に、体内でつくられた熱を全身に届けており、これこそが、やせるか太るかの分かれ目になる。
◆深部体温が下がることで代謝が低下
理学博士で「全国冷え症研究所」所長の山口勝利さんは、「血行が悪いと、熱を充分届けることができず、体が冷え、太りやすくなる」と話す。
「冷えとは、内臓の温度である『深部体温』が低下することをいいます。深部体温が下がると基礎代謝が落ちて、カロリーの消費が少なくなる“代謝ロス”が起きます」(山口さん・以下同)
活動量の少ない成人女性は、1日1400~2000kcalの摂取が目安だとされているが、血行不良によって代謝が落ちている人がそれだけのカロリーを摂取すれば、当然太る。
「深部体温が1℃下がるだけで、代謝が11~12%も落ちる。これは、約200kcal=ご飯茶碗1膳分に匹敵します。つまり、“一日一膳”ずつ太っていくようなもの。特に食べすぎていなくても、普通に生活しているだけで、10日で2000kcal、30日で6000kcalものカロリーオーバーになるのです」
体脂肪は1kgあたり約7000kcalだとされているから、1か月で1kg近く体重が増えるおそれもある。特に50代以上の女性は、内臓が冷えやすい。
「50代以上の女性は、上半身は暑いのに、下半身は冷えている人が多い。これは、血行が悪く、下半身に充分な血液がめぐっていないから。これによって深部体温が低下して起こる現象です」
◆冷えを改善するにはたんぱく質の摂取を
冷えを改善するためにはまず、たんぱく質を積極的に摂るといい。
「食べ物が消化される際、カロリーを消費することで体温が上昇します。このとき最も効率よく熱をつくることができるのは、炭水化物や脂質ではなく、たんぱく質です。摂取カロリーの20~30%が熱産生に使われるので、食事でたんぱく質をたっぷり摂ることで、体温が上がるのです」
日本人はたんぱく質の摂取量が少なく、平均して1日50~60gしか摂れていない。体重が60㎏の場合は、1日100gのたんぱく質を摂ることが理想だ。まずは1日あたり、体重×1.6gのたんぱく質を摂ることを心がけたい。
”やせる血液”になるために必要な運動
やせる血液・血管をつくるためには、運動も重要だ。だが、ただ歩くだけでは充分な運動とはいえない。
「血行のいい状態を維持するには、最低でも現状の筋力量を維持する必要があります。そのためには、最大筋力(自分の出せる筋力の最大値)の20~30%は使わないと、意味がありません。階段を上り下りしても、最大筋力の15%くらいしか使っていないのです。特に50代以降は下肢の筋肉が落ちやすいので、下半身の筋トレを意識的に行ってほしい」(梅津さん・以下同)
◆おすすめの運動は「ランジ」
下半身には、体全体の筋肉の7割が集まっているといわれる。効果的に下半身を鍛えるトレーニングとして、梅津さんが挙げるのは「ランジ」だ。
まず、両足をそろえて立ち、片足を一歩前へ出す。次に、上体をまっすぐにした状態のまま、ひざを曲げていく。後ろ足のひざをできるだけ地面に近づけるようなイメージで、前足のひざを90度まで曲げる。その後、前足で床を蹴って元の姿勢に戻る。
◆HIIT(ヒット)トレーニングも有効
体力がある人は、「HIIT(ヒット)」という高強度インターバルトレーニングに挑戦してみるのもいい。 HIITは、負荷の高い運動と休憩を交互に行うトレーニング法で、アスリートも行っている。
「例えば“腹筋などの筋トレを20秒間続けて、10秒休むのを5セット繰り返す”というもの。ただし、ある程度の筋肉がついてから、無理のない範囲で行うようにすること」
”やせる血液”になるために必要な食べ物
ダイエットといえば糖質制限がメジャーだが、梅津さんがおすすめするのは「地中海食」だ。
「エクストラバージンオリーブオイルやナッツをたっぷり使った地中海食を摂ることで、脳卒中や心筋梗塞などの心血管系疾患による死亡率が30%低下したというデータもあります。食事内容は、日本の伝統食を基本としたマクロビ食に近いイメージ。野菜たっぷりのサラダに、魚料理や玄米が中心の食事です」
◆おすすめの地中海食ダイエットの基本とは?
野菜、果物、ナッツ、豆類、オリーブオイル、魚介類、全粒の穀物やパンを毎日積極的に摂りながら、鶏肉、卵、チーズ、ヨーグルトなどを適量食べるのが、地中海食の基本。メインは魚にして、肉は月に数回に抑えるのがいい。
「野菜はキャベツ、白菜、ブロッコリーなど、血圧を下げる作用のあるアブラナ科の野菜を中心に、トマト、にんじんなど、できるだけたくさんの種類を食べること。果物はりんご、バナナなど、食物繊維が多いものを選ぶことで、血糖値が上がりにくくなります。ナッツは、内臓脂肪やコレステロールの減少に効果があるくるみやアーモンドがおすすめ。
ご飯は玄米にして、豆類は大豆を。納豆やみそは血圧を下げる効果があるので、積極的に食べてほしい。魚は血液をサラサラにするEPA、DHAに加えてビタミンDが豊富な鮭の切り身がベストですが、それだけに偏らず、魚介類はまんべんなく食べるようにしてください」
◆「0(ゼロ)カーボダイエット」のやり方
地中海食ダイエットは、手軽に始められるが効果が出るまでには少し時間がかかる。数か月で劇的にやせたいなら、糖質の摂取量ゼロを目指す「0(ゼロ)カーボダイエット」もいい。梅津さん自身も、3か月で体重はマイナス5kg、腹囲はマイナス8cmを達成したという。
「ゆでたり焼いたりする調理法を中心にして、揚げ物はNG。たんぱく質の不足を補うために、プロテイン飲料も飲みます。しょうゆなどの調味料には糖質が多いので、味つけが濃くならないように気をつけましょう。0カーボダイエットは、体重は劇的に落ちますが、長期間続けた場合の安全性は証明されていません。あくまで短期集中の奥の手だと心得てください」
サラサラで質のいい血液が末端までたっぷりいきわたっていること──これこそが、“やせる血液”の条件だ。
※女性セブン2020年12月17日号
●ダイエットの大敵、冷え。入浴での血行促進と睡眠で解消するコツ