40代、50代ともなれば、年々体力やお肌の衰えを実感するようになります。そうなると、自然と老いへの不安が生じてくる人もいるでしょう。例えば健康面では、体力の低下、生活習慣病の悪化、がんや脳血管障害、心疾患などの重大疾病への不安。見た目に気を使っている人は、よりいっそう肌質や体形が変化することを恐れ、憂鬱な気持ちになるかもしれません。
こうした老いにまつわるさまざまな不安を和らげるには、どうしたらよいのでしょうか。
『あれこれ気にしすぎて疲れてしまう人へ 精神科医30年のドクターが教える傷ついた心の完全リセット術』(徳間書店)でお金や人間関係、健康への不安をリセットする方法について綴った著者・精神科医の清水栄司さんに教えていただきました。
老いることで得られるものに目を向ける
清水さんは、あえて年を重ねることのポジティブさに目を向けることが大事だと話します。そこで役立つのが、次の名言。
《老年は山登りに似ている。登れば登るほど息切れをするが、視野はますます広くなる》(スウェーデンの有名映画監督・イングマール・ベルイマンによる言葉)
「私たちは年齢を経るごとに、若い頃には見えなかった景色が見えるようになります。それだけではなく、一般的に、賢さは加齢によって高まるとも考えられています。そう考えると、年を取るって素晴らしいことだと思いませんか?」(清水さん・以下同)
加齢により精神的に安定することも
また、年を重ねることで新たに得られるものも多いといいます。
実際、中高年の女性たちに話を聞くと、「育児や介護など背負ってきた荷物が少しずつ減って、自分の時間が増えた」「若いころのように外見にとらわれすぎなくなり、精神的にラクになった」などと穏やかな笑顔を見せるかたも少なくありません。
清水さん自身も、加齢に伴い精神的に安定するようになり、幸福度が増していることを実感しているそうです。
老いることはマイナスではなくプラス。そう考えると、沈みがちな気分も上がっていくのではないでしょうか。
「白か黒か」で考えることをやめる
「老いは悪いこと、若さは良いこと」といった、単純に二つに分けて考えてしまう癖がある人もいるでしょう。これは「白黒思考」や「二分思考」といって、憂うつや不安につながりやすい考え方だと、清水さんは警鐘を鳴らします。
「白黒つけずに、グレー(灰色)を大切にする考え方が、重要です。そのためには、若さや老いのメリット、デメリットをそれぞれあげていくこと。続けているうちに、若さや老いに、それほどこだわらなくなるでしょう。
例えば、次のような考え方もあります。今や日本人の平均寿命は男女ともに80歳超と少子高齢化が進んでいます。その影響で、平均年齢は47歳という数字も出ていて、今の日本人は50歳近い人が多い。平均寿命が50歳程度といわれる戦後に比べると、『老い』の問題は、みなが抱える問題と言えるでしょう。今は人生100年時代。100歳の人から見ると、50歳の人は未熟な若輩者なのかもしれません」
不安な感情を書き出してみる
それでも老化に対してネガティブな気持ちが消えず、クヨクヨしがちな人はどうしたらよいでしょうか。清水さんは、「何が不安なのか、書き出してみましょう」と提案します。
「多くの物事には、『自分の力でなんとかなること』と、『自分ではどうにもならないこと』があります。自分の不安なことを書き出してみて、そのことは、どちらに分類されるのかを整理してみましょう」
「なんとかなること」「どうにもならないこと」にわける
例えば、次のように。
《例》
【今、不安なこと】「がん、心疾患、脳卒中、認知症、感染症になったらどうしよう」
【自分の力でなんとかなること】「食事、運動などの生活習慣を改善する」
【自分ではどうにもならないこと】「生活習慣には気をつけていても、がん、心疾患、脳卒中、認知症、感染症になってしまった」
今の不安が、【自分の力でなんとかなること】に分類されれば、それを淡々と行いましょう。一方、【自分ではどうにもならないこと】に分類されるのならば、運を天に任せるしかありません。この場合、自分が不安になってもならなくても、同じ結果になる。ならば、心配しすぎて時間を浪費するより、楽しいことに目をむけていたほうがラクに生きられるのではないでしょうか。
◆教えてくれたのは:精神科医・清水栄司さん
千葉大学大学院医学研究院認知行動生理学教授、医学部附属病院認知行動療法センター長、子どものこころの発達教育研究センター長も務める。千葉大学医学部卒業。 千葉大学医学部附属病院精神神経科、プリンストン大学留学等を経て、現職。著書に『自分でできる認知行動療法 うつと不安の克服法』(星和書店)などがある。