石橋静河、宇野祥平が生み出す「起伏」
さらに重要なのが、若葉演じる謎の男の存在。映画公式ホームページの情報でも“謎の男”としか記されていないため、彼に関する記述は控えておきましょう。ただ、一つ言えるのは、彼の存在こそが本作を「劇場版」たらしめるキーパーソンだということです。
時折ユーモラスな展開も
重く苦しい展開が続く本作ですが、時折見られるユーモラスな展開も愛おしい作品です。保護観察官を演じる北村有起哉(47歳)、阿川が初めて担当した保護観察対象者・みどり役の石橋静河(27歳)、阿川のアルバイト先の店長を演じる宇野祥平(44歳)らは、ドラマ版からの続投組。
主演の有村との軽妙なやり取りが心地よく、特に石橋や宇野の存在は、磯村やマキタとはまた違う、軽やかな動きを作品に与えています。阿川が彼らの前で少しだけリラックスできるように、観客もまた少し、気持ちを緩めることができることでしょう。シリアスな展開にユーモアを織り交ぜる、物語の展開に起伏を与える好演です。
“保護司と前科者の関係”が突きつける「問い」
かつて傷ついた人、傷つけた人。あるいは、傷ついた人が身近にいる人、傷つけられた人が身近にいる人ーー。観る人によって本作は、さまざまな立場の人々に感情移入し、非常に胸が締め付けられる作品となっているのではないかと思います。しかし、だからこそ目を背けずに直視したい、そんな現実が描かれています。
サスペンスやヒューマンドラマとしての一面も
本作は難しいテーマを扱ってはいますが、人気キャストが作り上げる世界とあって、決して取っ付きにくいものではありません。シリアスな物語には起伏があり、ときにはユニークな展開も織り交ぜられているのは先述した通り。サスペンス映画として観る人もいれば、ヒューマンドラマとして特定の人物に感情移入する人もいることでしょう。
しかし、単なるエンターテインメント作品として消費されるような仕上がりにはなっていません。さまざまな角度から“保護司と前科者の関係”を見つめ、その奥にある「あなたならどうするか」という問いを突きつけてきます。
私たちのすぐそばにも、前科者をはじめ社会復帰を困難に感じている人が必ずいます。そんな人々とどう向き合うべきか。阿川と前科者たちの関係が、私たちに考える姿勢を促してくれるはずです。
◆文筆家・折田侑駿
1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。http://twitter.com/cinema_walk