
愛犬と出かける散歩は、犬にとっても飼い主さんにとっても楽しい時間。しかし、愛犬がまったく飼い主さんのペースに合わせず、前へ前へ駆けだそうとして首輪を首に食い込ませながら“ゼエゼエハアハア”とリードを引っ張るようだと、楽しむどころではないかも。獣医師にペットの心身のトラブルについて聞くシリーズ。今回は、犬のリード引っ張りグセを矯正する方法を獣医師の山本昌彦さんに聞いてみました。
「引っ張ると嫌なことが起きる」と因果を含める
多くの犬にとって散歩は至福の時間。中には、飼い主さんのことは好きだけど散歩のときは眼中にないという子も。リードで繋がってはいるもののリードがピンと張りっぱなしで常に距離が開いている。そんな愛犬を寂しく思ったり手を焼いたりしている飼い主さんは決して少なくありません。
獣医師の山本昌彦さんは「きちんとしつけて引っ張らないようにさせましょう。あくまで主導権を握っているのは飼い主さん。そのことが犬にも分かる形で散歩するべきです」と話します。
散歩の理想は飼い主のほぼ隣かやや後ろ
理想は、飼い主さんのかかとあたりに犬の鼻先が来るぐらいのポジション。飼い主さんのほぼ隣、やや後ろを愛犬が歩くようにしつけていきたいものです。それを目指して、まずは引っ張るのをやめさせましょう。

「以前もお話しましたが、犬は点と点を線で結んで理解することができます。“おすわり”をして“待て”をしたらご飯が食べられる、というようなことです。ですからこのリード引っ張り問題も、『引っ張ったらよくないことが起きる』もしくは『引っ張るのをやめたらいいことが起きる』と犬に教えることで解決できます」
引っ張ったら立ち止まって散歩を中断
引っ張ると嫌なことが起きる、引っ張らないで歩くといいことが起きる、この因果を含める方法はいくつかパターンがあります。山本さんのおすすめは散歩を中断するやり方。
「犬が引っ張ったら、飼い主さんはその場に立ち止まってください。犬はしばらくの間、それでも引っ張って前に行こうとしますが、どうしても進めないと分かれば落ち着いてきます。そこで名前を呼びながら、微笑んでアイコンタクトを取りましょう。犬が飼い主さんのそばに寄ってきたら、ほめてあげる。おやつをあげてもいいですね。一段落したら『じゃあ、行こうか』と飼い主さんから歩き出してください」

これを繰り返すと、犬は引っ張ると前に進めなくなる、自分の要求が叶わなくなる、逆に引っ張るのをやめて飼い主さんに近寄るといいことがある、と理解します。
リードの持ち方にも注意
「すぐに覚える子もいれば、なかなか飲み込めない子もいますが、あまり短期間で方針を変えずに、あきらめないで同じしつけを繰り返すことが大切です。散歩は飼い主さんと一緒に歩くものと犬が覚えるまでは、リードをある程度まとめて短く持ってもいいですね。
首が弱くて、少し引っ張ってもゼエゼエ言う子の場合は、首輪からハーネスに変えるなど別途、対策を考えましょう。苦しそうだからといって好き勝手にさせるのは禁物。犬と飼い主さんの関係性が歪みかねません」

なぜ引っ張る?走りたいの? その理由
犬がリードを必死に引っ張るのは、走りたいからなのでしょうか。ゆったり歩くだけの散歩では物足りない、もっと体を動かしたいという欲求があるようにも見えますが…。
「犬がリードを引っ張るのは、主に好奇心からだと思われます。お散歩している道の先に何があるのか気になってぐいぐい体が前へ出てしまうという子がほとんどではないでしょうか。ただダッシュしたい気分のときもあるかもしれませんが、運動量が十分かどうかとはまた別の問題です」
適切な運動量は犬種によって異なる
ちなみに、適切な運動量は犬種によって異なり、個体差もあるそうです。

「チワワやトイプードルなどの小型犬なら1日30分、街中を走らないで歩くだけでも足りると思います。一方、中型犬になると1時間ぐらいが適当でしょうか。30分の散歩を朝夕するのもいいですね。大型犬は1日合計2時間ぐらいが適当です。
注意しなければいけないのは、牧羊犬や狩猟犬など、もともとよく走るように身体ができている犬。広大な牧場で羊を追っていたコーギーやウサギ猟に使われていたビーグルは、体は小さいけれど走力のある犬種です。普段の散歩中もコースのどこかでダッシュを取り入れたり、休日にはドッグランなどに連れて行ってあげてください。中型犬のボーダーコリーも運動大好き。大型犬並みの散歩時間が必要です。
ただ、犬種差、個体差がありますので、どの犬でも長々と散歩をすれば喜ぶわけではありません。関節炎や膝蓋骨(しつがいこつ)脱臼、心臓病などを患っている子は散歩で身体に負荷がかかるので、様子を見ながら無理のない程度にしましょう」
◆教えてくれたのは:獣医師・山本昌彦さん

獣医師。アニコム先進医療研究所(本社・東京都新宿区)病院運営部長。東京農工大学獣医学科卒業(獣医内科学研究室)。動物病院、アクサ損害保険勤務を経て、現職へ従事。https://www.anicom-sompo.co.jp/
取材・文/赤坂麻実
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