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【65歳オバ記者 介護のリアル】母ちゃんが亡くなって2週間、バスを降りると「財布がない!」騒動の顛末

オバ記者
母ちゃんがいなくなってから2週間。日常が戻りつつあるオバ記者は今どう過ごしているのか
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ライター歴43年のベテラン、オバ記者こと野原広子(65歳)が、介護を経験して感じたリアルな日々を綴る。昨年、茨城の実家で4か月間、母ちゃんの介護したオバ記者。その母ちゃんが3月7日、病院で亡くなりました。母ちゃんがいなくなってから2週間、「やってしまった!」という出来事が…。オバ記者に何があったのでしょうか。

* * *

身内を送ったあとは「私であって私じゃない」

雨の中、新宿の叔母の家に行ったら、帰りのバスに財布を置き忘れた。子供のころから忘れ物が多いたちで、そのたび気の短い母ちゃんから「テメはバカだか(ら)」と怒鳴られ、ときにはゲンコツが飛んできたけど、その母ちゃんも今はない。

オバ記者
昔は忘れ物をする度に怒鳴られ、時にはゲンコツも!
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それに身内を見送ったあとはいつもそう。身体と意識がバランバランで、私であって私じゃなくなるんだよね。

3月7日に亡くなった母ちゃんの葬儀がしめやかに行われた
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思えば4年前から私の身内がバタバタとこの世からあの世に移っていったの。まずは宮大工だった年子の弟が胃がんで亡くなり、8か月後の冬にはまったく同じ病で83歳で義父が亡くなり、その夏の盛りには19年連れ添ったオス猫が息を引き取った。

オバ記者とねこ
19年連れ添ったオス猫「三四郎」
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必ず何か失くしものをする

そのたびに私はいろんなことをやらかしている。ネットでどう考えても怪しいエメラルドのネックレスを買ってみたり、結婚詐欺師に軽く引っかかってみたり。必ず「そっちに行ったらダメ!」ということをするのよ。そして必ず何か失くしものをする。

しかも母ちゃんが亡くなったのは、私がいちばん気持ちが落ち着かなくなる木の芽どきだ。よほど気もそぞろだったんだね。ある日、顔をあげたらいきなり桜が咲いていたの。

私がやらかしたのは、その写真を撮った翌日の夜8時。目白駅前でバスを降りて、JR目白駅まで歩き出しながらポケットをまさぐったら財布がナイ! 振り向いたらバスは走り出したところ。「待ってえ~。止まってえ~」と心の中で叫んだところでどうなるものじゃないわよ。

オバ記者と愛用バッグ
いつも持ち歩いている手製のバッグ
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元はといえば、いつも肌身離さず左手首に下げているチェックのミニバックを持って家を出なかったのがマズかったのよね。財布、スマホ、家の鍵などすぐに取り出したいものが入るこのバッグは私の手製で、同世代の友だちから「欲しい!」と言われ、何個つくったかしら。

財布の中にはカードと免許証、現金が…

それを持たず、春のコートに財布を突っ込んで家を出た。財布の中には、あらゆるカードと原チャの免許証と現金3万円弱が入っている。どうしよう。幸いスマホはある。30分ほど雨の中を歩けば叔母の家に着く。事情を話せば秋葉原の家に帰るまでの電車代210円は間違いなく貸してくれる。

けれど、最後に残ったきょうだいだった母ちゃんがいなくなってから、めっきり弱々しくなってきた叔母の顔を思い浮かべると気がすすまないんだわ。ドジな姪にますます落胆しまいか。

結局、交番の若いお巡りさんに事情を話すと、バスの終点の練馬車庫の電話番号を教えてくれたの。そうしたら夜の10時過ぎないとバスが戻らないとか。戻ってきたら連絡をしてくれると言う。ならばと、雨がしとしと降る目白駅前で1時間半、あっち歩き、こっちの建物に身体を預けて時間をつぶした時のミジメさといったらなかったね。

「ノハラさんですか?」

10時15分。練馬車庫の係の人の明るい声で、財布があったことがわかる。とっさにその場にしゃがみ込みそうになったわよ。だけど財布はバスの運転手さんが回収してくれたけれど、営業時間の関係で受け渡しは翌朝でないと出来ないとのこと。すまなそうな声でそう伝える都バスの職員さんって、どんだけ親切なの!

結局、タクシーを拾い、運転手さんに事情を説明して、家に着いたら一枚だけ家に置いておいたクレジットカードで支払うことを約束して、送っていただいたわけ。

私のセルフヒーリング法は電車とバス

で、一晩寝ると少し元気になって、翌日は練馬車庫へ財布を受け取りに行きがてら、500円の1日乗車券で都バス乗り回しの日に決めた私。気持ちがズドンと落ちそうな時は、電車でもバスでも乗るに限る。これは、長い一人暮らしで身につけた私のセルフヒーリング法。

オバ記者
気持ちが落ちそうな時は電車かバスに乗る! それが私のセルフヒーリング法
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コースは下記の通り。

秋葉原駅南口~本郷三丁目駅前~江戸川橋~練馬車庫~目白~池袋駅東口~西新井駅~池袋駅東口~上野広小路。

オバ記者 駅前
人けなしの駅前の風景は初めて訪れた西新井駅前。長く都バス唯一の黒字路線だった。池袋から約40分の乗車
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10時半に出発して、8本の都バスを乗り継ぎ、途中、バス停前のカフェに2軒入って、上野に戻って来たのは夜7時半。東京の右上、三分の一の風景をただ、眺めていたの。

小鳥が目の前に舞い降りてきた

こんなことをいうと怪しいオカルトオバさんみたいだけど、キツい現実から逃避行をすると、必ず小鳥が目の前に舞い降りてくるのは今回もそう。弟が亡くなってすぐに、もともとの予定通り、友人とパリに行ったら公園で一羽の小鳥がさえずりながら、私たちの前後を追いかけたり、前を歩いたりして離れないのよ。「こんなとこに来てたのかよって、伸ちゃん(宮大工の弟)、文句言ってんじゃない?」と、弟同士も同級生のF子が言っていたっけ。

オバ記者 鳥
バス停に小鳥。バスが近づくまでオバ記者の前をぴょんぴょん
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乗り鉄、乗りバスって、しばしこの世の見物人になることだと思う。この年まで気ままな一人暮らしを続けてきたけど、母ちゃんがいて当たり前という枠が取り払われると、どうにも地に足がつかない。そんな自分の気持ちを乗り物の中から見える風景と混ぜて見たりしていると、振り子の振り幅がだんだん小さくなってくるような。この自己ヒーリング法、今回も効くといいな。

◆ライター・オバ記者(野原広子)

オバ記者イラスト
オバ記者ことライターの野原広子
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1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。昨年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。

【293】故郷の田舎道を原チャリで走る「何を見ても母ちゃんの顔が浮かぶ」

【292】母ちゃんを看取って今思う「悲しいけれどどこかホッとしている」

→オバ記者の過去の連載はコチラ

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