ライター歴43年のベテラン、オバ記者こと野原広子(65歳)が、介護を経験して感じたリアルな日々を綴る。昨年、茨城の実家で4か月間、母ちゃんの介護したオバ記者。その母ちゃんが3月7日、病院で亡くなりました。母ちゃんがいなくなってから2週間、「やってしまった!」という出来事が…。オバ記者に何があったのでしょうか。
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身内を送ったあとは「私であって私じゃない」
雨の中、新宿の叔母の家に行ったら、帰りのバスに財布を置き忘れた。子供のころから忘れ物が多いたちで、そのたび気の短い母ちゃんから「テメはバカだか(ら)」と怒鳴られ、ときにはゲンコツが飛んできたけど、その母ちゃんも今はない。
それに身内を見送ったあとはいつもそう。身体と意識がバランバランで、私であって私じゃなくなるんだよね。
思えば4年前から私の身内がバタバタとこの世からあの世に移っていったの。まずは宮大工だった年子の弟が胃がんで亡くなり、8か月後の冬にはまったく同じ病で83歳で義父が亡くなり、その夏の盛りには19年連れ添ったオス猫が息を引き取った。
必ず何か失くしものをする
そのたびに私はいろんなことをやらかしている。ネットでどう考えても怪しいエメラルドのネックレスを買ってみたり、結婚詐欺師に軽く引っかかってみたり。必ず「そっちに行ったらダメ!」ということをするのよ。そして必ず何か失くしものをする。
しかも母ちゃんが亡くなったのは、私がいちばん気持ちが落ち着かなくなる木の芽どきだ。よほど気もそぞろだったんだね。ある日、顔をあげたらいきなり桜が咲いていたの。
私がやらかしたのは、その写真を撮った翌日の夜8時。目白駅前でバスを降りて、JR目白駅まで歩き出しながらポケットをまさぐったら財布がナイ! 振り向いたらバスは走り出したところ。「待ってえ~。止まってえ~」と心の中で叫んだところでどうなるものじゃないわよ。
元はといえば、いつも肌身離さず左手首に下げているチェックのミニバックを持って家を出なかったのがマズかったのよね。財布、スマホ、家の鍵などすぐに取り出したいものが入るこのバッグは私の手製で、同世代の友だちから「欲しい!」と言われ、何個つくったかしら。