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スイスのお金持ちが株式よりも債券を好むのはなぜか?|賢い債券投資【前編】

お金が増えるイメージ
スイスのお金持ちに学ぶ賢い資産の増やし方(Ph/PhotoAC)
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生活用品や食品の値上げが続き、家計がどんどん苦しくなってくる昨今。私たちはどのように資産を守り、老後資金を増やしていくとよいのでしょうか。アドバイスをくれたのはファイナンシャル・プランナーの渡邊一慶さんです。

渡邊さんは、世界最大手のスイスのプライベートバンク「UBS銀行」で世界中のお金持ちからお金を預かり、運用してきました。こうした経験をもとに、マネー初心者向けにわかりやすく資産形成を説いた『定期預金しか知りませんが、私、本当にお金持ちになれるんですか?』(秀和システム)を上梓。そんな渡邊さんがすすめる資産の置き場所は、「現預金」「投資」「年金や保険」のざっくり3つに分けること。うち3割の投資で特に投資初心者におすすめなのは、「債券」だそう。債券とは? いざ買うときどこをチェックすればよいのでしょうか。【前後編の前編】

そもそも債券とは?株式とはどこか違うのか?

「“手堅い資産形成”を好むスイスのお金持ちは、値上がりと値下げの振れ幅が大きい株式より、安定的に資産を増やしていけるという理由で債券を好む人が多い。私自身も、堅実に資産を増やすなら債券をおすすめします」(渡邊さん・以下同)

スイスの街並み
スイスのお金持ちは確実に資産を増やす“債券”を選ぶ人が多い(Ph/PhotoAC)
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改めて、株式と債券の違いを、“企業目線”で教えてもらいました。

「株式とは、株式会社が資金を出してくれた人に対して発行する有価証券のこと。債券は国や地方公共団体、企業などが、資金を投資家などから借り入れるために発行する有価証券で、いわば、お金を借りた証明を意味する借用証書です。

株式も債券も、発行体の目的は同じく資金調達です。違いは、その方法。簡単に言うと、株式はお金を“出してもらい”、債券は“一時的にお金を借りている“だけ。債券で資金調達をした企業は、いつか投資家に返済しなければなりません」

満期までは毎年利息を受け取れる

一方、私たち“個人投資家目線”で見ると、次の通り。

「個人投資家は、無料でお金を貸すわけではありません。お金を貸したお礼として利息をもらいます。それこそが、債券を購入するメリットです。債券は、出資する株式と違って一時的にお金を貸しているため、満期までは毎年利息を受け取ることができます。そして債券を発行する国や企業が倒産しない限り、満期になったら投資した金額(元本)が全額返済されます。つまり、安定性がある投資なのです。

通帳の写真
お金を貸したお礼としてお金(利息)がもらえる。これが債券のメリット(Ph/PhotoAC)
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スイスのお金持ちが債券を好むのは、リターンが未確実な株式と違って、リターンが確定しているからといえますね」

債券の注意ポイント|利率・発行価格・満期を見よ

では、私たち投資家は、債券を買うときどこを見たらよいのでしょうか。チェックポイントの1つは、利率(利息)・発行金額・満期の3つです。証券会社のHPで、債券の項目をクリックすると、販売されている債券のリストが並び、各債券に詳細情報が載っています。そこで、利率(利息)・発行金額・満期の部分を見るのです。

パソコンの前に座っている女性
債券を買う時は利率(利息)・発行金額・満期を必ず確認しよう(Ph/PhotoAC)
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「わかりやすく例を挙げると、投資家は、債券を発行した企業に5年間で100万円を貸す代わりに、毎年3%の利息をもらうとします。この時、『何%のリターンがもらえるのか=利率(利息)はいくらか』だけでなく、『いくらの金額を貸すのか=額面金額』、『いつまで貸すのか=満期(正確には償還)』もチェックする必要があります。

これを証券用語でいえば、『投資家は単価100万円の債券を額面100万円分購入する。利率は3%で満期が5年だった場合、投資家は100万円を5年間貸して、毎年3%の利息を受け取れる』――となります」

債券の注意ポイント|同じ利率なら発行価格が「100」より低いこと

毎年決まった利息収入を得られて手堅く運用できる債券ですが、注意点が2つあります。

「1つは発行体の倒産リスク。万一発行体が倒産すると、損失が出ます。もう1つは、価格の変動リスク。債券は満期を待たずに途中で売ることもできますが、その時、買った時から債券価格が変動していた場合、損失が出る可能性があるのです。

債券価格は、発行されてから満期までの間、金利によって変動します。金利が上昇すると債券価格は下がり、金利が下落すると債券価格は上がります。

仮に、3年前に買った債券の利率が3%だったとします。その後、市場の金利が上がり、新たに発行された債券の利率は5%になりました。世の中の人は利率が高い方が得なので、利率5%の方の債券を欲しがり、購入しますよね。そうすると、3年前に買った金利3%の方の債券の価値が下がる。結果、債券価格も下落するというわけです」

お金が飛んでいく写真
債券にも損失が出るときがあることを忘れずに(Ph/PhotoAC)
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債券の発行価格をチェック

とはいえ、金利は今後どうなるか私たち素人にはわかりません。そこで1つの指標にしたいのが、債券の発行価格。各債券の情報を見ると、「発行価格」「募集価格」という欄があり、例えば、ほとんどのケースでは「各社債の金額100 円につき金100 円」「額面100円につき100円」などと書かれています。この「~につき金100円」の数字部分をチェック。

「債券の発行価格が100のことを『パー』といい、債券価格が上昇して額面100より高くなった場合を『オーバーパー』、債券価格が下落をして100より低い場合を『アンダーパー』といいます。この場合、同じ利率であれば、アンダーパーである、額面が95の債券を買うと、100になって戻ってくるため、リターンがいいといえます。

つまり、発行体が倒産しそう、といった例外を除けば、100より低い95などのアンダーパーの債券を買うことが、1つの目安になります」

債券の注意ポイント|最低購入価格や購入と売却のタイミング

一口に債券といっても、実はさまざまな種類があり、どの債券を買うかによってチェックポイントも異なります。

国内で買える債券(国内債券)の種類を大別すると、公共債と民間債の2種類。うち公共債には、国が発行した「国債」のほか、都道府県や市区町村が発行した「地方債」、日本政策金融公庫などの政府関係機関が発行した「政府保証債」などがあります。民間債には、一般企業が発行した「社債」、金融機関が発行した「金融債」など。

この公共債と民間債、購入時期や最低購入価格が異なります。

投資イメージ
債券にもさまざまな種類があり、購入時期や購入価格などが異なる(Ph/PhotoAC)
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公共債とは?個人向け国債は利率0.05%

まずは公共債から、もっともメジャーな個人向け国債に絞って説明してもらいました。

「国債とは一般的に10年国債のことを指しますが、個人投資家に人気な個人向け国債の利率(利息)はおおむね0.05%。メガバンクの定期預金の利率0.002%より若干高いくらいです。毎月募集があり、買う場合は証券会社や銀行などの金融機関から申し込み、最低1万円から購入できます。利息は年2回に分けてもらえます。満期日になる前に売却した場合、利息は日割りで計算されてもらえます」

民間債とは?購入は先着順

他方、民間債は各企業が不定期に債券を発行しています。

「取り扱う金融機関は、債券ごとに異なるため、特定の民間債を買いたい場合はいくつかの金融機関を見比べて探すことになります。購入は先着順なので、利率が高いなど魅力的な債券は募集期間内に完売してしまうことも。購入金額は、一般的には最低50万円から100万円くらい。中には、50万~100万円からしか購入できない債券もあります」

ほか、公共債と民間債の大きな違いは、満期の前に売りたくなったとき、いつでも売却できるかどうかという点です。

売る買うのイメージ
債券によって売れるタイミングも違う(Ph/PhotoAC)
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「個人向け国債は発行から1年経過しないと売却できません。それに対し、民間債は、発行後1年を待たずにいつでも売ることができます。その時注意したいのは、民間債は時価で売るため、買った値段より債券価格が下がっていたら、売却損が出てしまうことです。つまり、売り時を見極めることが重要です」

◆教えてくれたのは:ファイナンシャル・プランナー・渡邊一慶さん

ファイナンシャル・プランナー・渡邊一慶さん
ファイナンシャル・プランナー・渡邊一慶さん
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株式会社マネージュ代表取締役、ファイナンシャル・プランナー、マネー教育アドバイザー。1983年、愛知県生まれ。関西外国語大学を卒業後、三菱UFJ証券に入社。アメリカのシティバンク銀行からヘッドハンティングされて転職。その後、プライベートバンクで世界最大手のスイスのUBS銀行へ。クライアントアドバイザーとして、金融資産2億円以上の富裕層顧客の資産管理を担当する。2016年に独立して現職。著書に、『定期預金しか知りませんが、私、本当にお金持ちになれるんですか?』(秀和システム)がある。https://twitter.com/manege8341

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