エンタメ界のトップ俳優たちの好演が光る
これまでの李監督作品と同様に、本作にはエンタメ界のトップ俳優たちが集結し、それぞれの好演が光っているのも見どころの一つ。実際に、俳優たちへの称賛の言葉をネットでよく目にしているのではないでしょうか。広瀬さんも松坂さんも横浜さんも多部さんも、誰もが新たな表情をのぞかせているように思います。
広瀬さんと李監督のタッグは、『怒り』に続いて2度目のこと。広瀬さんは、同作にて残酷な他者の悪意に翻弄される少女を演じてから6年、今作でも一筋縄ではいかない重い役どころに挑んでいます。
彼女が演じる更紗とは、どこか空洞を感じさせる人物。広瀬さんは特定のシーンを除いて控えめな演技を展開していますが、その中に垣間見える繊細なリアクションに魅せられます。受動的な性格の更紗が、やがて“自分の求めているもの”を自覚し、主体性を獲得していくまでの変化の表現も見事です。
“弱さ”を押し出した松坂桃李の演技
対する松坂さんは、李監督と初タッグ。アウトローから若手の官僚、ピアニストからアイドルオタクまでと、まさに“なんでもござれ”な彼ですが、本作では全面的に弱さを押し出した演技を展開しています。
役づくりとして体を絞ることなどもしたそうですが、それ以上に消え入りそうな声が印象的。絞り出すように発するセリフの一つひとつに胸が締め付けられます。これまでにも松坂さんは“弱さ”を感じさせる演技を諸作品で披露してきましたが、本作では白眉だと言えるシーンがいくつも見られるのです。
そして、表向きは好男子なものの強烈なコンプレックスを抱え、更紗に対する独占欲から暴力的な人間に豹変することもある恋人を演じた横浜さんや、文の恋人でありながら、彼と更紗の特別な関係を前にして深く傷つく女性に扮した多部さんの演技も、それぞれのキャリアにおいて最良のものだと思います。
この2人の好演があってこそ、更紗と文のやり取り、ひいては広瀬さんと松坂さんの演技も際立っているのです。