
女優・大塚寧々さん(53歳)の連載エッセイ「ネネノクラシ」(8760 by postsevenで掲載中)がスタートして1年。何気ない暮らしの場面を切り取り、そのとき感じたことを丁寧につむいだ文章は、同世代の女性から支持を集めています。もともと読書家でもあった寧々さんですが、本格的にエッセイを執筆したのは今回が初めて。そんな寧々さんに執筆活動や「どんなときも欠かせない」という読書について聞きました。
エッセイに対する周囲の反応は「らしいね」
豊かな感性と温かい人柄が詰め込まれたほんわかとしたエッセイは、「寧々さんの声が聞えるよう」と好評だ。周囲の人の反応はどうなのだろうか。
「“らしい”と言われます。思いついたことを、本当にそのままパーッと書いているので、友達に私らしいと言われた通り、素が出てるんだろうなと思います」(大塚さん・以下同)
これも“素が出ている”ということなのだろうか、エッセイには多くの“失敗談”が登場する。例えば、布バッグに入れていたおにぎりに気づかず、そのまま洗濯機に入れてしまったエピソード。

《洗濯終了を知らせる音がした。とにかく干さなきゃと思い、洗濯機をあけたら…。
ご飯粒とごまだらけになった洗濯物が…固まった。》
夫の“大失敗”について書いた回も反響を呼んだ。息子が小さかった頃、夫が、白いひげをたくわえ、サンタクロースに扮して登場。息子は大喜び。”夫サンタ”は去っていった。しかし――。
《夫はあっという間にお風呂場に戻ってきて、「今サンタさんが来た~?」と涼しい顔をしている。ああ~良かったと思っていると、子供が突然大きな声をあげた。
「サンタさんのベルトが落ちている~! これサンタさんのベルトだよね!? 忘れたのかな~?」とまた大興奮。
夫は「あちゃ~」という顔をしている。私は笑いを堪えるのに必死だ。》
飾ることなく自身や家族のエピソードをテンポよく綴る。他にも、食からファッション、趣味のことまでテーマは多岐にわたる。情景が浮かぶような軽快なタッチの文章はどんなシチュエーションで執筆しているのだろうか。
「たいてい焦って一気に4本分まとめて書きます(笑い)。仕事が詰まってくると余裕がなくなり、書く気持ちになれなくなってくるのですが、前倒しで書いていたら、季節感が想像しづらかったことがあって、あまり早く書きすぎてもダメなんだなって思いました。
適度な頃合いに、パソコンに向かって数時間で一気に書きます。たいてい午前中か午後の、食事が終わって、洗い物して落ち着いたタイミングですね。バーっと書いて、切るとこ切って、足りなかったら足して、みたいな感じです。“てにをは”が変でも箇条書きが混ざっても、後から整えればいいので、もともと怠け者なので、勢いで書かないと嫌になっちゃうんです」
本はどんなときにも欠かせない
書くだけではなく、読むことも好きだ。 本を読まない日はないというほどの読書家でもある大塚さん。リズム感あふれる軽快な筆致は、日々の読書の賜物かもしれない。
「本はどんなときにも欠かせないですね。コロナ禍以前、海外ロケに行ったときなどにも、何冊も本を持っていったこともありました。でも重いじゃないですか。そういうとき電子書籍は便利だなって思います。でも電子書籍のページをめくるのに、手が滑って行き過ぎちゃって、『あっ!』って思って戻るのがちょっと面倒。まだまだ使いこなせてないですよね(笑い)」

面白い本に出合うための情報収集も欠かせない。多くは“口コミ”だ。
「最近は、読んだ本の中で何が面白かったかをいろんな人に聞いてるんです。(こう言いながら、撮影スタッフ1人1人に好きな本を尋ねる寧々さん)。 『アーモンド』(著・ソン・ウォンピョン/祥伝社)と『52ヘルツのクジラたち』(著・町田そのこ/中央公論新社)がすごく良かったって聞いたので、それを読みました。聞いていた通り本当に心に深く感じるとても良い本でした。
本好きの友人におすすめ作品を聞くと、それを4冊ぐらい持ってきてくれて、そんなふうにして読んでいると、本って途切れないんですよね」
そんな寧々さんに「最近好きな本は?」と聞いて真っ先に名前が上がったのは、畠山健二さんの『本所おけら長屋』(PHP研究所)。個性的な面々が揃う江戸の「おけら長屋」を舞台にした時代小説だ。
「とにかく泣けて、笑えて、すごく元気をもらえます。大好き過ぎて、『おけら長屋』に住みたいくらい(笑い)。以前、エッセイで書いたことがきっかけになったのか、畠山さんとの 対談が実現して、とても楽しい時間を過ごすことができました。うれしかったです」
引っ越しのときも処分しなかった大切な本
これだけの読書家であれば、自宅にある本はかなりのスペースになりそうだが――。「以前は家が傾くんじゃないかっていうくらいの量だったんです」と笑う寧々さん。

「あまりにも多くて、引っ越しの時にかなり人にあげてしまったのですが、取っておけば良かったなって思うんですよね。初版ものも結構あったと思うし、古いものもあったし、もったいなかったなぁ。本棚の背表紙を見てると、たまに読み返したりすることもあるんですよね。本って手に取るうれしさもある。
特に大切にしているのは写真集なのですが、スティーグリッツが撮ったジョージ・アオキーフ(『Georgia O'Keeffe: A Portrait』/Alfred Stieglitz/Harry N Abrams; Revised版)ですね。あとはおけら長屋シリーズもベッドサイドにいつも置いてあって、いつでも開けるようにしています。本を読むのはたいてい寝る前で、入眠にはちょうどいいかもしれません。先が気になってなかなか眠れませんが(笑い)」
◆大塚寧々(おおつか・ねね)
1968年6月14日生まれ。東京都出身。日本大学藝術学部写真学科卒業。『HERO』、『Dr.コトー診療所』、『おっさんずラブ』など数々の話題作に出演。2002年、映画『笑う蛙』などで第24回ヨコハマ映画祭助演女優賞、第57回毎日映画コンクール主演女優賞受賞。写真、陶芸、書道などにも造詣が深い。夫は俳優の田辺誠一。一児の母。
撮影/網中健太 ヘアメイク/福沢京子 スタイリスト/安竹一未(kili office) 取材・文/田名部知子
大塚寧々さん衣装/ジレ、カットソー(チノ/モールド)パンツ(ペレック/タク&コー)イヤカフ(マリハ)ネックレス、バングル(リューク)サンダル(プレインピープル/プレインピープル)
タク&コー(http://pelleq.com)
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