つらいときに声を上げられる文化を広めたい
――絵を描いていて、喜びを感じるのはどんな瞬間ですか?
真理子さん:一番満ち足りた気持ちになるのは、描き上がって、その絵を美しいと思うときです。今までは仕事で評価を受けたいという思いが強すぎて苦しんできたけれど、絵は何よりもまず、自分自身が美しいと思うかどうかの世界なので。それが自分の価値観を大きく変えたし、癒しになりました。
その後、SNSに絵をアップすると、絵をどんな気持ちで描いたか、どんな境遇の中で描いたか、描いた人がどんな人間性かといったことも込みで、私の絵を「好き」と言ってくださる人たちがいて、ああ、絵はこんなふうに見てもらえるものなんだなと思いました。
シンシアさん:ストーリーって大事です。この展覧会と対談で、まさにそれを真理子さんと一緒に打ち出せたらいいなと思っています。コロナ禍が始まって、女性の自殺が増えてしまったじゃないですか(※全国の女性の自殺者数は2020年、2021年と2年続けて増加)。真理子さんは絵を描いて表現しているし、ご病気のことをSNSで発信できている。これが重要だと思うんですよ。日本社会ってみんな苦しいのに言わずに、自分の気持ちにフタをしてしまう。「もっと声を上げようよ」というメッセージを届けたいですね。
真理子さん:本当にそうですね。もっとみんな、周りを頼っていいと思います。それと、心の病気を抱える人に、「病気になったことは恥ずかしいことじゃないんだよ」ということも伝えたいですね。
うつ病って、真面目で努力家で自分を犠牲にしてまで頑張っちゃうタイプの人がかかりやすいと言われています。だから、その人がもし適材適所に配置されていたら病気にならずにすごく活躍できた可能性もある。その人が所属する組織のマネジメント側に問題があるケースもあると聞きます。だから、患者さんはどうか恥じないで、堂々と治療を受けて、よくなったらまた活躍しましょうと言いたいです。
シンシアさん:日本はリーダーシップに多様性がないのが問題ですよね。日本の社会では、リーダーのほとんどが同じ業界で同じことをやり続けてきて出世した男性。「多様性を大切に」とは言うけど、そんな世界の狭い人に、うつ病に苦しむ人のことも、海外からやって来て清掃の仕事をしている人のことも、時給が100円高いという理由で千葉から都内へ働きに通う人のことも、分かるわけがない。そんなことでは、多様な人材が活躍できる場をつくれるわけがないですよ。
真理子さん:「ダイバーシティ」という言葉だけは広まりましたけど、実際にはうつ病や適応障害などで休職したことがある人を排除したり差別したりする向きがあると思います。それが怖くて、自分はどうやらうつ病らしいと感じながら病院を受診していない、治療を始められないという人もいるんです。
いろんな人に活躍してもらわないとやっていけない少子高齢化社会なら、うつ病や適応障害も貴重な経験のはずなのに、企業のトップがそこを理解できていない。シンシアさんみたいな経営者のかたってまだまだ少ないです。
シンシアさん:私の場合は、(結婚・出産後に17年間、子育てに専念したため)出遅れたし、その後のキャリアもストレートにはいかなくて紆余曲折ありましたから。でも、それだけじゃなく努力もしているつもりです。うちのホテルに来てくれる清掃会社のかたや、スーパーのレジ打ち時代のパート仲間と、私から誘っておしゃべりしています。
彼女たちと話していると、世の中がどう動いているのか分かるし、面白いです。経営者の集まりにも顔を出しますが、そちらは退屈に感じることもしばしばです(笑い)。
真理子さん:シンシアさんってLinkedInの投稿なんかを拝見していても辛口のコメントが多いですけど(笑い)、でもおっしゃること全てが真っ当なんですよね。冷たいのではなく論理的なんだと思います。