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【65歳オバ記者 介護のリアル】安倍元首相の訃報に触れて改めて感じた「家族が消えていく寂しさ」

議員会館の外観写真
安倍元首相の葬儀の日。衆議院議員会館前には多くの人が集まり、元首相の棺をのせた車を待った
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ライター歴43年のベテラン、オバ記者こと野原広子(65歳)が、介護を経験して感じたリアルな日々を綴る「介護のリアル」。昨年、茨城の実家で母親を介護し、最終的には病院で看取ったオバ記者。それから4か月経ち、寂しさは募るばかり。そんなときに届いた安倍元首相の訃報。この4年間で身内を何人も亡くしているオバ記者が感じたこととは――。

* * *

一瞬で人の命が消える不条理さ

「いる」と思っていた人が突然、「もういない」になる。テレビ画面は繰り返し事件を報じているけど、一瞬で人の命が消える不条理さ。このモヤモヤでここ数年、私の抱えていたパンドラの箱が開きかけたんだわ。

オバ記者の母親
4か月前に亡くなった母ちゃん。写真は四十九日の時のもの
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この4年間、年子の弟が60前に亡くなったのを皮切りに、8か月後には胃がんを患っていた義父がなくなり、その半年後には19年暮らしたオス猫・三四郎が。2年後には、大バトルの介護をした母親が93歳でこの世を去った。

次々とこの世から家族が消えていくたびに、感情は二の次、三の次。必要なことを必要に応じてしようと、たんたんとやり過ごしてきたけれど、しばらく前から気を抜くと寂しくて、心細くてたまらないのよ。

母ちゃんと義父と一緒にカラオケを楽しんだ思い出の1枚
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一国の元総理大臣の死と、茨城の片田舎の貧しい一家の衰退が一緒になるはずもないけれど、安倍元総理の死がきっかけで私のパンドラの箱を開きかけたのは確か。友だちのちょっとしたジョークがジョークに聞こえなくて、「それってどういうことかな!」と、声、とんがってるし。

政治記者に誘われ自民党本部に献花へ

安倍元首相の葬儀の日もそう。「参ったなぁ~」といいながら昼近くになってもベッドから離れられないでいた。そしたら、安倍番をしていたテレビ局の政治記者女子から「自民党本部に献花に行きませんか?」とLINEが入ったの。

一も二もなくこの提案に飛びついたわよ。そうなのよね。モヤモヤしたら個性は無用。人がしていることをするに限るんだって。

安倍元総理
何度かお見かけした安倍元首相。立ち姿がきれいだった(写真は2019年、両院議員総会で)
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4年前から衆議院議員会館の議員事務所でアルバイトをしている私は、何度か安倍元首相をお見かけしている。そのたびに思うのは全身から発する明るさと、立ち姿のきれいさなの。テレビ画面を通して見ると気の短さと子供っぽさを感じることもあったけれど、実際に見ると彼の永田町での人気の理由がわかる気がするんだわ。

3年前の参議院議員選挙が終わったあと、自民党議員が勢揃いした両院議員総会。私は議員付きのカメラマンとして会場に入れていただいた。この後、コロナの騒動が起きて、永田町ではさまざまなことが起きたけれど私にとって政治は“犬が星見た”状態で、わけがわからないことばかり。

葬儀の日、安倍元首相に「敬礼!」

葬儀の日、午後3時前。今まで見たことがない人数が、議員会館と国会議事堂の間の道に出てきていた。永田町というとふんぞり返った政治家の先生が歩いているところと、私もバイトをする前は思っていたけれど、実際は食堂の人や警護の人、掃除の人などいろんな人が働いていて、その数は国会議員よりずっと多いのよね。

オバ記者
安倍元首相も逝ってしまった…
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安倍元首相を乗せた黒い車が衆議院議員会館の前に近づいてきた。いくどとなく、最敬礼をして安倍元首相の車を衆議院会館の駐車場に誘導したに違いない警備員さんたちが、横一列に並び、「敬礼!」の号令。

私はその声を聞くまで安倍元首相を乗せた車が通り過ぎるところをスマホにおさめようと身構えていたのに、車が通る前から手を合わせてしまい撮影は失敗した。

「あ、雨」

「涙雨だね」

誰かの声がした。

身近な人を亡くすと人は変わる

解剖学者の養老孟司先生は、「人は親兄弟など身近な人を亡くすと変わります」とYouTubeで話していたけど、ほんとにそう。私は人が変わったんだと思う。見送りなんて身内の死を体験する前なら絶対にしなかったはずだし、見送りをしたら少しホッとするよね、なんて人から聞いたら「気のせいじゃない?」と笑ったかも。

介護の真っ最中は一秒でも早く、ここから離れたいと願っていたけれど、天寿をまっとうできず、突然消える死を目の前にすると、介護の時間を持ててよかったなと、これも私の実感だね。

安倍さん、どうぞ安らかに。

◆ライター・オバ記者(野原広子)

オバ記者イラスト
オバ記者ことライターの野原広子
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1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。昨年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。

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