男性アーティストの月の歌がエモい!
女性アーティストの月うたは、どこか俯瞰で地球を見るイメージがあるけれど、男性アーティストの月うたは、普段内に抑えていた感情がドッと出て、より人間臭くなる感じがする。爆風スランプの『月光』は7月の歌だけど気にしないでご紹介。「好きなのに、この気持ちなぜ届かない!!」と叫び声が聴こえそうな孤独と逸る気持ち。それが「月光」と「ムーンライト」という言葉が混在して使われることで、ヒシヒシと伝わってくる。
エレファントカシマシの『今宵の月のように』は、月夜の道をぶらぶら歩きながら、今日のこととか、これまでのこととかグルグル回るあの感じを、そのまんま歌にしてくれてありがとう! と言いたくなる。おかげで、月のきれいな夜は「月のように……いーいーーー↑↑」のサビの部分が、無意識に口から出てくる率がとても高い。
B’zの『今夜月の見える丘に』は、眠れなくなってしまうほどエモーショナル台風が心に吹くので注意しなくてはならない。稲葉浩志さんの声は太陽も月も制覇できるエネルギーがある。もう「宇宙認定ボイス」と言っていいだろう。
また、オペラやミュージカルを一本観たような気持ちになるのが1999年の世紀末、西川貴教さんがプロデューサー浅倉大介さんと結成したユニットthe end of genesis T.M.R. evolution turbo type Dの『月虹-GEKKOH-』。ユニット名の長さに負けず楽曲も壮大で、ボーッと聴くだけで別世界にヒュッとワープし、そのまま帰り道を見失いそうな怖さも味わえる。
その怖さはJanne Da Arcの『月光花』にも感じるかも。やさしいもの、美しいものは有限である、と痛感するような、ヒリヒリするような儚さ。
ああ、夜の時間が足りないよ!
大阪ではカラオケのテッパン曲、桑名正博『月のあかり』
ラストは大御所、東西「桑」の月ソングを。東の「桑」、桑田佳祐さんの『月』は、ハーモニカの音と、桑田さんの掠れた声が、それはもう最高にブルージーで、涙腺をジリジリと責めてくる。
西の「桑」は、大阪の歌自慢たちに大人気な桑名正博の『月のあかり』。言葉にするのが苦手だけど、大切な人への思いが心にいっぱい溢れている人は、この歌がぴったりだ。ぜひ聴いて、シンガソンしてほしい!
満月は、人を感情的にさせる。医学的にも、月の引力が強まるため、血が頭にのぼりやすいのだそうだ。そのため眠りにくくなることもあるという。どうせ興奮状態で眠れないなら、これらの歌を聴いて浸り、泣くのもいいだろう。
最後にマメ知識を。月といえば、日本ではクレーターの模様が「うさぎが餅をついているように見える」と言われるけれど、中南米では「ロバ」、ヨーロッパでは「大きなハサミを持つカニ」なのだそう。
月うたの破壊力でセンチメンタルになり過ぎ、涙腺のコントロールができなくなったら、チラッとロバとカニを思い浮かべてみて。クールダウンのお役に立てば……。
では、よい十五夜になりますように。
◆ライター・田中稲
1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka