“選ばなければ”仕事があるという達観
シンシアさん:お2人は専業主婦になる決心がついて、実際にその暮らしを楽しんでいる。あとは、子供が小さい時期を過ぎて、仕事に復帰しようというとき、それがどんな形で叶うのかですよね。不安に思うことはありますか?
菜野さん:まずは子供と自分が生活していける1か月25万円(の給与の仕事)がみつかればいいと割り切っているので、怖くないですね。仕事復帰1年目から、会社を辞める前にもらっていただけの給料かそれ以上を得ようとすると、そんなことが可能かどうか不安にもなると思うんですよ。
私は最初の再就職先を一生いる場所だと思わずに、数年かけて転職や異動、会社側との交渉もしながらステップアップしていけばいいと思っています。再就職後どれだけ短時間で元に戻せるか?が私の関心事項ですね。
優季さん:私も不安はあまり感じていません。歯科衛生士の資格を持っているので、選ばなければ食いっぱぐれることはないと思っています。過去に、小児がんを患っている子供の看病のための休業から復帰したとき、給料がガクンと落ちる経験をしたので、そこからまた自分を評価してくれるところを探して収入を増やしていけばいいというのも分かっていますし。
シンシアさん:みんな10代や20代で就職して、少しずつ登ってきたはずだけど、そのことを多くの人は忘れているんですよね。何かでキャリアが途切れても、また少し下から登り直せばいいだけのことなのに、直近の立ち位置にすぐさま戻れないと、もう最低最悪みたいな受け止め方になってしまう。
だから、優季さんみたいに「選ばなければ」仕事はあると思えない人が多いみたい。優季さんはどうして、「選ばなければ」という考え方ができるんですか?
優季さん:パートからキャリアを再開した経験があるので、どこからでも仕事内容や収入は徐々に充実させていけるだろうという思いがありますね。それと、これまでがこだわりすぎていた気がするので、その反省もあります。
シンシアさん:仕事の選び方にこだわりすぎていたということ?
優季さん:資格に捉われていたと思うんですよ。せっかく取った国家資格だから、これを使って一生働くのが正しい道だと思い込んでいた。資格と関係ない仕事をするより稼げるはずだからと。でも、歯科衛生士の年収は30代でも40代でも400万円を切るぐらいなんです。高収入にこだわるのなら他にも仕事はいくらでもあったのに。
だから、何がなんでも歯科業界でなければいけないと思わずに、“私は資格を持っていて歯科の仕事でたくさんの経験を重ねて来たから得意だった”という程度に、こだわりのレベルをぐっと下げてみました。それと、資格以外のリソースを考えたり。そうすると、歯科以外の仕事でもチャンスがあればやってみたいと思えるようになりました。
シンシアさん:他の業界も選択肢に入ってきたんですね。優季さんにとって、仕事は報酬を得るためのもの?
優季さん:そうですね。好きな仕事ではありますけど、報酬は大事です。
「好きなことをする」「お金もたくさん欲しい」は並び立たない
シンシアさん:なるほど。菜野さんは仕事をどういうものだと捉えていますか?
菜野さん:私は大学ではPRの勉強をして、就職してからは営業をやったり商品企画をやったり、結構バラバラで。業界も自動車とインフラと家電を経験しています。ただ、1つだけ決めていたのが、 “得意なことをして働く”ということでしたね。それが一番、効率よく稼ぐ方法だと思うから。
シンシアさん:「得意」がポイントですね。「得意」と「好き」って違う。好きなことをする、お金もたくさん欲しい、この2つはなかなか並び立たないと思います。でも、得意なことをする、お金がたくさん欲しい、これは両立しやすいです。
菜野さん:好きを仕事にって考えてしまうと、自分はそこまで好きなことがないとか、自分はキラキラしてないって考えてしまったりして、かえって心がしんどいんじゃないですかね。私も好きなことといったら洋服だから、洋服屋さんには憧れましたけど実現はしなかった。
優季さん:私も学生の頃、アパレルの店員さんになりたいと思いましたけど、実際に働いている方から「お金はあまりもらえないよ」「夜遅くまで働くことになるよ」という話を聞きました。もちろんすべての職場ではないと思いますが、いろいろ調べたりして考え直しました。
菜野さん:私も洋服とはお客さんとして関わる形でいいのかなと思いました。待遇だとか諸条件が自分にとって魅力的でなかったときに、それでも好きだからその仕事がしたいと思えるかですよね。私にはできない。
シンシアさん:私は好きなものって特にないけど、娘は小説が好きで、作家になりたいと言っていた頃がありました。私は頭ごなしに反対するのではなく、作家の自叙伝をたくさん買い集めて与えました。思った通り、彼女はそれを読んで経済的なことを含め、作家という仕事のリアルな厳しさを悟ったようでしたね。別の職業を現実的な進路として考えるようになった。
それでも彼女の中で創作への情熱は完全には消えず、働き始めてからも「やっぱり作家に」と言うので、彼女がロースクールに合格したあと、「勤めていた会社を退職し、入学するまでの半年の間ずっと小説を書いてみたら」と提案しました。彼女はそうしてみて、それで気持ちを昇華できたみたい。得意を先にやって、好きを後の楽しみにとっておくと言っていた。
菜野さん:好きな仕事だと、手放すのもつらいですよね。でも得意だからしていることなら、ライフステージによって手放すタイミングが来ても、あまり苦しくない。
優季さん:そうですね。お2人と話していると、私の仕事への思いも、好きというより得意というほうがフィットするなと思いました。