
猫を飼っていて、動物病院に行くのはどんなとき? ペット保険会社のデータによれば、消化器疾患が最も多いとのこと。下痢や嘔吐の症状が出て受診すると、胃腸炎などの消化器疾患が見つかって治療に結びつくのだそうです。今回は猫の消化器疾患について、かかりやすい病気や予防法などを獣医師の山本昌彦さんにうかがいました。
猫の消化器疾患、多いのは胃腸炎
アニコム家庭どうぶつ白書によれば、猫が動物病院を受診するケースで多いのは消化器疾患によるもの。統計の分類を変えた2018年以降、保険請求割合(患者数ベース)で毎年1位となっています。1年間におよそ15%の猫が消化器の病気で病院にかかっています。山本さんに、猫の代表的な消化器疾患を挙げてもらいました。
「一口に消化器疾患といっても、実際にはさまざまな病気があります。多いのは胃腸炎。急性も慢性も多いです。それから消化器型リンパ腫も多いですね。他には、肝リピドーシス、胆管肝炎、すい炎、巨大結腸症、腸重積など。猫が吐いたり下痢したりして、病院で調べてみると、胃腸炎であることが分かったり、腫瘍や胃の中に異物が見つかったりします」(山本さん・以下同)
胃腸炎の原因は食べ物、ストレス、異物など
胃腸炎は、胃や腸の粘膜に炎症が起きることをいいます。発症から数日以内のものは急性、2週間以上症状が続いているものが慢性です。
「急性は嘔吐や下痢を繰り返したり脱水症状が出たりと激しい症状がみられます。慢性は食欲不振や下痢、嘔吐が長く続いて体重が落ちてきます。胃炎では吐いたりよだれがたくさん出たりしますね。腸炎は下痢をする子が多いです」
胃腸炎になる原因は、食べ物、ストレス、感染症、異物誤飲、毛玉などがあります。
「古くなったものを食べたときはもちろん、食べなれないものや脂肪分が高いものを食べたときにも胃腸が荒れることがあります。また、猫は環境の変化に敏感なので、知らない人が遊びに来たというだけでも胃腸炎を発症することがあります。
異物はひも状のものに特に注意したいですね。猫はひも状のもので遊ぶのが大好きですが、誤って飲み込むと胃腸炎や腸閉塞、腸重積になることもあるので、ただちに処置が必要です」
胃腸炎の治療法は?
胃腸炎の治療法は皮下点滴や内服薬など。軽症であれば自然に治ることも多いようです。異物誤飲の場合には摘出手術をしたり、寄生虫感染の場合には駆虫薬を使ったりします。こうした治療をしても効果が上がらない場合、症状が長引く場合には、他の病気を疑って検査することになります。
早期発見に努めたい消化器型リンパ腫
猫の消化器型リンパ腫は、血液中のリンパ球ががん化する病気で、高齢になるとリスクが高まります。
「腸管に腫瘍ができることが多く、下痢や嘔吐などの症状が現れます。免疫不全や食欲不振、極端に痩せてしまったりという症状も見られます。原因は解明されていませんが、猫白血病ウイルスの感染や、免疫力の低下、ストレス、遺伝的なものが影響していると考えられます」

消化器型リンパ腫の治療法は?
消化器型リンパ腫の治療法は抗がん剤の投与。
「この病気も含め、がんの治療についてはかかりつけの医師とも家族の中でも、よく話し合って治療方針を決める必要がありますね」
予防として飼い主さんにできることは、猫白血病ウイルスに感染しないようにワクチンを接種すること、また、病気にかかった場合に早く発見できるように定期的な健康診断を欠かさないことが大切です。
肝リピドーシスの予防には肥満防止
肝リピドーシスは肝臓に過剰な脂肪がたまって肝臓が正常に機能しなくなる病気です。元気がなくなって、食欲が落ちたり、吐いたりします。病気が進行すると黄疸や意識障害などの症状も現れます。
「初期症状として眠っている時間が長くなったりもするので、飼い主さんが早く気づいてあげられるといいですね。原因は栄養障害や脂質の代謝異常、ホルモン異常、ストレスなどが考えられます。太った猫がなんらかの理由で食事をあまり取らなかったときにたんぱく質が不足し、体内の脂肪代謝が落ちて発症するケースもありますね。肥満は万病のもとなので、気を付けたいところです」
肝リピドーシスの治療法は?
治療法は点滴と経管栄養。チューブを通じて高たんぱくの流動食を直接、胃や食道に注入します。予防法はやはり肥満防止だといいます。
「年齢に応じてフードを変えるべきなのに、飼い主さんがそれを怠ってしまったために、シニアになって太る猫が結構います。年齢によって必要な栄養成分は変わってきますし、カロリー過多になると消化器系統に負担もかかりますので、ぜひ年齢に合わせたフードをあげてください」
日頃から食物繊維を十分摂るなどして対策を
その他の消化器系の疾患にはどのようなものがあり、どう予防すればいいのでしょうか。

胆管肝炎
胆管肝炎には、肝臓や胆管が細菌感染して炎症が起きる化膿性と、免疫細胞が過剰に反応して炎症が起きる非化膿性の2種類があります。
「化膿性はオスに多い傾向があります。症状は食欲不振や発熱、脱水、嘔吐、黄疸など。非化膿性は分かりやすい症状が出にくく、ゆっくり進行していくことが多いですね。原因が解明されていないので予防も難しいのですが、肥満防止はやはり大切です。それから、食物繊維を多く摂取することで、併発疾患のリスクを減らせると考えられます」
すい炎
すい炎は、十二指腸で活性化するはずの消化酵素がすい臓内で活性化してしまい、すい臓自体を消化しにかかってすい臓に炎症が生じる病気です。
「主な症状は腹痛、嘔吐、下痢。慢性すい炎はシニアの猫に多いですね。これも原因がはっきりとは分かっていなくて、脂肪の摂りすぎや胆管の奇形が要因になっているようです。予防として飼い主さんにできることは、やはり栄養管理。肥満や偏食には気を付けましょう」
巨大結腸症
巨大結腸症は、便秘が続いて大腸(結腸)に糞便がたまり、大きく拡張してしまった状態をいいます。さらに便秘が進んで、食欲不振や嘔吐、痩せ、脱水といった症状を起こすこともあります。
「予防法は、バランスの取れた食事。日頃から食物繊維がしっかり摂れるようなフードを与えましょう。便秘になったら長引かないように、猫が安心して排泄できる環境を整えたり、たくさん水を飲ませたりすることも大切ですね」
今回は、猫の消化器疾患の代表的な病気をいくつか、山本さんに解説してもらいました。予防法としては、誤飲しそうな異物のない環境、ストレスのかからない環境、ライフステージに合わせた栄養管理、感染症対策(ワクチン接種など)が有効です。猫好きの皆さんにとっては基本的なことかもしれませんが、改めて徹底していきたいものです。
◆教えてくれたのは:獣医師・山本昌彦さん

獣医師。アニコム先進医療研究所(本社・東京都新宿区)病院運営部長。東京農工大学獣医学科卒業(獣医内科学研究室)。動物病院、アクサ損害保険勤務を経て、現職へ従事。https://www.anicom-sompo.co.jp/
取材・文/赤坂麻実
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