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稲垣吾郎が映画『窓辺にて』で見せた俳優としての真価、他者を活かすことによって起こした化学反応

俳優・稲垣吾郎の真価が収められている

本作は、クスリと笑える瞬間やヒヤヒヤと緊張させられる瞬間の連続によって成り立っていますが、ベースにはほのぼのとした空気が流れています。このベースを作っているのが、稲垣さん演じる主人公の市川です。彼は自分のことを「僕ほど平凡な人間はいない」というようなことを劇中で口にします。

一見して紳士的で余裕のある大人であり、たいがいのことには動じない。高校生作家・久保の真理を突くような発言にも、友人である有坂の悩みにも変わらず落ち着いた対応をしてみせます。

映画『窓辺にて』場面写真
(C)2022「窓辺にて」製作委員会
写真11枚

けれども人間関係が複雑になり、それぞれのキャラクターにも複雑な“個”があることが表出し始めると、市川にだって変化が表れるように。つまり、他者との表層的な関係でなく、それなりに深い(あるいは特別な)関係性にまで踏み込むことによって、いくら平凡で動じない彼にも変化が訪れるのです。

映画『窓辺にて』場面写真
(C)2022「窓辺にて」製作委員会
写真11枚

それでも終始ほのぼのとした空気が流れているのは、稲垣さんが市川というキャラクターの心の機微(変化)を絶妙なさじ加減で表現しながらも、主演として作品全体の“ベース作り”に徹しているからだと思います。

他者を活かすことによる化学反応

ここ数年の稲垣さんといえば、俳優業を活発化させている存在です。2019年には『半世界』という作品で素朴な男性主人公を演じ、彼の代表作となりました。同作を手がけた阪本順治監督はインタビューで稲垣さんについて、「主演俳優はいろんな個性を持つ俳優さんを相手に、来たボールを受けては返すキャッチャーなんです。そして、稲垣君はそれが出来る人」と語っています。

映画『窓辺にて』場面写真
(C)2022「窓辺にて」製作委員会
写真11枚

『窓辺にて』の市川も、まさにこの力が必要とされるキャラクターのように思います。ほかの登場人物たちが安心してこの世界で自由に個性を発揮できるようなベースを作り、彼・彼女らとのやり取りにより受け手である市川にも変化が生じ、それによって私たちは笑いや涙を誘われる。そこでは稲垣さんが他者を活かすことによる化学反応が起きているのです。本作には俳優・稲垣吾郎の真価が収められていると感じます。

映画『窓辺にて』場面写真
(C)2022「窓辺にて」製作委員会
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