「みんなそれを覚悟して入院してるんです」
ふだんひとり暮らしの私はこの気遣いが耐えがたかったんだわ。とうとう8回目のトイレのとき、「今夜だけでも個室に移動させてください。こんなに何度もトイレに立ったらみんなを起こしてしまうもの」と訴えたのよ。そうしたら「あ、その気遣いはいりません。4人部屋ということは、みんなそれを覚悟して入院しているんです」とバチッと言われたの。
その言葉の力強かったことといったらない。「ああ、なるほどね」とストンと納得したからか、それを最後に深い眠りの中に落ちていったわよ。
歯磨きや体拭きの経験は強烈だった
「野原さん、歯磨きしましょう、口を開けてください」と言われたのは手術の翌日だ。たぶん人から歯を磨かれたのはこの時が初めてだ。それにしても寝ながら歯磨きをするのはなんとも無精ったらしいけど、もっと強烈なこともされたっけ。
これは手術した当日だったか、ホットタオルで体を拭かれたの。どこもここもあそこも、すみずみまで看護師さんは手を休めず手際よく拭いていったけれど、それをさせていた私の意識は半分以下だったんだね。後にも先も自分の身を全部まかせたのはその時だけで、2回目は「自分でしますっ」とかなりきつい調子で断ったもの。
思うに病人になるってことは、自分と体が離ればなれになって、体のほうを医療の手にゆだねるってことなんだよね。そのおかげで体が私に戻ってきた。
「ありがとう。お世話になりました」
自宅で夜中、トイレに起きたときなどに大学病院でお世話になった看護師さんの顔をひとりひとり思い浮かべたりしている。
◆ライター・オバ記者(野原広子)
1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。昨年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。
【324】「卵巣がんの疑い」で手術した65歳オバ記者、心配だった医療費のこと 12日間の入院で負担額は?