女優・大塚寧々さんが、日々の暮らしの中で感じたことを気ままにゆるっと綴る連載エッセイ「ネネノクラシ」。第37回は、寧々さんが訪れた「室蘭の水族館」について。
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冬になり寒くなってくると、なぜかもっと寒い場所に行きたくなる。北海道とか、標高が高い山とかにだ。多分空気が綺麗で、変な表現かもしれないが呼吸すると酸素のツブツブが美味しい!と感じて体も心も嬉しくなるからだと思う。例えば、神社に行ったときのような感じとでも言えばいいのだろうか。日常生活のわさわさした感じがプツプツと抜けていき、自然の優しさが体に元気をくれるような感覚だ。
何年か前の冬、室蘭で映画を撮っていた。そのときに水族館でも撮影したのだが、休館だったせいか、とても静かで初めて訪れるのに、懐かしいような気持ちになった。小さい観覧車があり、そのすぐ横には団地が建っていて夕陽が綺麗で心が温まる美しい風景だった。ここに住んでいたら毎日この景色が見れるなんていいなあと思った。
もし自分がここに住んでいたら、きっとゆっくりと静かで穏やかな気持ちで生活出来そうだなとか、色々想像した。散歩で毎日アザラシやペンギン達の顔を見に来てしまいそうだ。そのうち勝手に名前をつけている気がする!(笑)
クラゲを見ていると「時間がまるで止まっているよう」
水族館では外でペンギンたちのちょこちょこ歩く姿がなんともいえず可愛い。後ろの建物に時計があり、そのすぐ横にはカモメが止まっていてなんだかペンギン達の学校みたいだ。「はあい、もう教室に行きますよ~」とかいう声が聞こえてきそうで微笑ましい。アザラシはこっちを見て水面を手でパタパタ!パタパタ!と叩いている。 飼育員の方が「ご飯を催促しているんです」と仰っていた。なんて可愛いのだろう!
水族館にはクラゲもいて、私はクラゲを見ているのが好きで、本気で水槽で飼えないのかと思った事もあったほどなのだが、ふわふわと漂う姿は本当に美しかった。水槽の中で、浮遊している透き通った姿をずっと見ているとまるで宇宙みたいだなと思う。クラゲはゆっくり動いているが、見ていると時間がまるで止まっているかのような錯覚におちいる。
だんだん自分の呼吸もゆっくりになっていくのを感じる。無になる感じがして、それがとても落ち着いて安心する。またあの室蘭の水族館に行きたい。
◆文・大塚寧々(おおつか・ねね)
1968年6月14日生まれ。東京都出身。日本大学藝術学部写真学科卒業。『HERO』、『Dr.コトー診療所』、『おっさんずラブ』など数々の話題作に出演。2002年、映画『笑う蛙』などで第24回ヨコハマ映画祭助演女優賞、第57回毎日映画コンクール主演女優賞受賞。写真、陶芸、書道などにも造詣が深い。夫は俳優の田辺誠一。一児の母。出演映画『Dr.コトー診療所現在』が公開中。