女優・大塚寧々さんが、日々の暮らしの中で感じたことを気ままにゆるっと綴る連載エッセイ「ネネノクラシ」。第33回は、「カメラ」について。大学時代は写真学科で学んだ寧々さんがカメラに魅力されたきっかけとは――。
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自分で写真を撮り始めたのは中学生の頃だったと思う。父がカメラが好きだったので、小さい時からフィルムを切ってカメラに入れていたりはしていたけど。
ある時ふとレンズに書いてある数字とかは、どんな意味なのだろうと疑問がわいた。取扱説明書を引っ張り出して読んでみたが、実感として今ひとつわからなかった。なので水道から出る水を、一つ一つ数値を変えて撮ってみた。
数字をメモしておいて後で違いがわかるようにし、現像できるのを楽しみに待った。出来上がってきた写真は水を撮っているだけなのだが、シャッタースピードと絞りでこんなに世界が変わるのかと驚き、魅了された。
レンズによっても広角と標準では切り取る世界が違うし、マクロレンズも小さいものを大きく写すので肉眼とはまた違う世界で面白かった。自分が昆虫になったような気分だった。
カメラを持って行く先を決めずに旅する解放感
それからは学校がお休みの日は、父が持っていた一眼レフカメラ、NikonのFAを借りてあっちこっち撮りに行った。カメラを持っていると、道を歩いている方から「写真撮ってるの?」と話しかけられたりして、色々な方と話す機会も増え、世界が広がっていくような感じがした。
自動車の免許を取得すると、さらに行動範囲が広がり、行ったことがない場所や風景に出会えた。どの高速に乗るのかも決めずにカメラを持って、行く先を決めずに旅するのは自由な気がして解放感があった。
高速から国道、県道、林道と細い道に行くほど楽しかった。学生の頃は宿泊帳みたいなのを見て良さそうな素泊まりの宿をよく探した。宿の方が親切でお漬物を頂戴したりとか、近くの情報とかを教えてもらったり、自然の美味しい空気を体いっぱいに吸って、ずっとこうして旅をしながら生きていたいと思ったものだ。
最近は息子がフィルムカメラに興味を持っていて、色々聞いてくる。お休みの日に写真展に行ったり、カメラ屋さんに行ったりしている。「一眼レフカメラ、家にあるよ」と言ったのだが、自分のが欲しかったらしく色々調べてマイカメラを買っていた。息子が好きな写真家は私も好きで、好みが似ていて面白いなと思うし、なんだかちょっと嬉しい。
それにしてもフィルム一本の値段の高さに驚いた。私が学生の頃とは全然違う。きっと息子も一枚一枚丁寧に撮っているのだろうなと微笑ましくなる。
◆文・大塚寧々(おおつか・ねね)
1968年6月14日生まれ。東京都出身。日本大学藝術学部写真学科卒業。『HERO』、『Dr.コトー診療所』、『おっさんずラブ』など数々の話題作に出演。2002年、映画『笑う蛙』などで第24回ヨコハマ映画祭助演女優賞、第57回毎日映画コンクール主演女優賞受賞。写真、陶芸、書道などにも造詣が深い。夫は俳優の田辺誠一。一児の母。現在、出演映画『軍艦少年』が公開中。