
昨年は、入院と手術を経て境界悪性腫瘍であることがわかった、ライター歴30年を超えるベテランのオバ記者こと野原広子(65歳)。これまでもさまざまな検査などで病院にお世話になってきたというが、特に何度も受けたのが胃カメラによる検査。20回以上も経験したというオバ記者が、初体験からその”苦しさ”を克服するまでをリポートする。
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「胃カメラするなら死んだほうがマシ」と言って他界した弟と父
人に誇れることはほとんどない私だけど、胃カメラ検査なら任せて。なにしろ検査経験20回以上だから、今いきなり「これから胃カメラ検査をします」と言われても、「ほう、そうですか」で、まったく心拍数が上がらないもの。
だけど私みたいな人間は珍しいみたいで、年子の弟と父は「あんな検査するくらいなら死んだほうがマシだッ」と、はき捨てたっけ。1度目で参っちゃったんだよね。

弟は5年前に59歳で亡くなり、その8か月後には父も他界。ふたりとも胃がんの末期だったの。それにしても、「死んだ方がマシ」というのはモノのたとえでしょ。本当に死ぬことないのに!!と今でも腹がたって仕方がない。
同時に、もし私が早い段階で検査につきそっていたら、ふたりの胃がんは早期に発見されて命を長らえられたのかも、という後悔じみた気持ちが消えないんだわ。実際のところ、「病院には行かない。検査なんかしない。オレは病人じゃない」と頑張る人間を、なだめすかせて病院に連れていくなんてできないんだけどね。それでも、私が体得した胃カメラ検査のコツを伝えていたら、自分で定期健診を受けてくれていたかもとも思うんだよね。
胃カメラは「太いざるそば」?
私が初めて胃カメラ検査をしたのは32歳のとき。突然、息ができないくらい胃が痛くなって、あわてて近くの総合病院に駆け込んだら痛み止めの薬を渡され、胃カメラ検査の予約を入れさせられたの。

胃カメラは、その単語を聞いただけでひとりの例外もなくしょっぱい顔になる。いったいどれだけ恐ろしい検査なんだろう。そんな心配をする私に、10歳年下でライターになったばかりのW子が忠告してくれたんだよね。彼女は子供のころから病弱でずっと病院とは縁が切れなかった人。胃カメラも何度ものんでいるとか。
「胃カメラは太いざるそばを一本、胃までのんで出し入れされる感じ。それをいかに抵抗しないで受け入れられるかどうかなんだよね」
今、彼女とは縁が切れてしまったけれど、「胃カメラは太いざるそば」という言葉は、その後、胃カメラ検査のたびに思い出すんだわ。
胃かいようで20回以上も胃カメラをのむことに
なぜ私が何度も胃カメラ検査をすることになったかというと、32歳のときの胃痛が胃かいようのためで、その胃かいようは薬をのんで治ったけれどしばらくすると再発。胃カメラをのむ。薬を処方される。放っておく。再発する。これを42歳まで繰り返したの。

なんていい加減な!!と思われそうだけど、当時、胃かいようは生活習慣病というのが定説だったんだよね。「ストレスを少なくして規則正しい生活をすれば徐々によくなります。それまで痛みが出たら処方した薬をのんでください」と、どの病院でも言われたもの。
今は、胃かいよう、胃がんの主な原因は胃の中にピロリ菌が巣くっているからで、それは5歳くらいまでに飲んだ井戸水が原因というのが定説らしいけれど、25年前まではそうじゃなかったのよ。
そんなわけで胃かいよう患者だった10年の間に10回以上、胃カメラをのみ込むことになった。その後、定期健診も含めたら20回以上。
初めての胃カメラは「体の拒否反応がすごかった」
そんな私だけど、初めて胃カメラの管がグイと入ってきたときの体の拒否反応はすごかったわよ。口にはさるぐつわみたいなものをかまされて、管が押し込まれるたびにすごい吐き気。口からはたえずヨダレが流れ、お腹に空気を入れられたらおならまで出そうになる。うそっ!!ふざけんな!! もうやめてっ!!検査台から跳ね起きそうになるのを踏ん張れたのは「胃カメラ、太いざるそば。抵抗するな」と心の中で唱えていたことも大きかったと思う。

あれは3度めのときだったかしら。看護師さんが「なるべく長く喉に止めておいてくださいね」と口の奥にちゅっと喉麻酔のゼリーを入れたとき、思いついて鼻を鳴らすほど派手な鼻呼吸をしてみたのよ。口呼吸をするからついゼリーを飲み込んじゃうけど鼻呼吸なら、ちゃんとゼリーが喉に留まるのではないかと。これが大正解でね。喉の感覚もこれまでとは大違いで、ちゃんと麻酔が効いているのがわかる!!
胃の中を案内してもらうことで医師見習いの気分に
それでちょっとした余裕ができたのね。検査台に寝た私は、若い医師に「私の胃の中をディズニーランドを案内するように案内してください」と言っていたんだわ。生真面目な医師は「できるだけの案内をします」と応えてくれて、「はい、ここが噴門部で、この穴がいかいようです。カメラを奥に進めますね。こちらが十二指腸で、あ、ここはきれいです」とカメラを動かすたびにキチンと説明してくれたの。
「へえ、自分の体の中ってこんなにピンク色していたんだ。かいようはクレーターみたいな形をしていて穴の縁は白っぽいんだね」
自分の体を他人事のように眺めたときの感覚は今でもよく覚えている。ギャーッ、苦しい!!どうしてくれる!!という患者気分に溺れない。モニターを医師といっしょに見ていると医師見習い、みたいな気分が混じるのよ。
それもこれも「胃カメラ、太いざるそば」というイメージと、喉の麻酔ゼリーをしっかり利かせるコツを体得したからだと思う。
さらに胃カメラの回数を重ねたら、私の場合、胃カメラをのみ込むときに「おえっ」となる部分を通過するまでは、“さるぐつわ”をしないほうがスムースに入ることがわかったのよ。“さるぐつわ”は後付けしてもらうように医師にお願いすると、「いいでしょう」ということに。
鼻からの胃カメラを試してみたが…
こうして着々と胃カメラ検査のキャリアを積んでいった私だけど、5年前に転機が訪れた。
還暦の記念に人間ドッグを受けた病院で、「最新機器の威力を試しませんか?」と鼻から管を入れる検査をすすめられたのよ。「ちょっと自信があります」と不敵に笑う医師にそそのかされて、その気になって身を任せたら、あら凄い!!「ここからちょっと痛いですけど、ハイっ、通りました」と言う通り、一瞬で関門を通過したではないの。喉から通すのと違って、まったく「おえっ」とならないしね。
ところが、別の病院で同じことをしたら、鼻の関門を通るときに痛いのなんの。おまけに終わったら鼻血が止まらない。さらに思いがけない痛みのショックでモニター画面を半分しか見られなかったの。

あとで、いろんな人に鼻から検査の体験を聞いてみたらとどのつまりは、鼻からのは検査医の腕によるところが大きいらしいんだよね。「最初はダメだったけど2度めは楽になった」という人もいるし、「何度やっても痛い」という人もいる。そうそう、喉も鼻もダメな人には、わからないうちに検査を終える麻酔コースもあるのよね。
さて私だけど、次に胃カメラ検査をするときはもう一度、喉からコースに戻してみようと思っているの。牛になったようにデロデロとヨダレを流しながら、カッと目を見開いてモニターを見ていると、半獣半人になったみたいで面白いのよ。
好奇心、全開。これも検査を楽にするコツかも。
◆ライター・オバ記者(野原広子)

1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。昨年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。
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