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薄井シンシアさんが語る63歳での転職面接 企業にウケた「失敗から始まる変革エピソード」

薄井シンシア
63歳で外資系大手企業に転職した薄井シンシアさん
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17年の専業主婦生活を経てキャリアに復帰した薄井シンシアさん(63歳)が昨年秋、転職しました。外資系ビジネスホテルの日本法人社長から、異業種の外資系企業の社員へ。転職活動の応募先選びや履歴書の準備に続いて今回は、シンシアさん流の転職面接への臨み方について語ってもらいました。

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面接の前に会社のことを徹底的に調べる

応募先を選んで応募書類を提出したら、書類選考の結果を待ちます。今回の転職活動は、書類選考で落ちていたタイから日本に帰国した12年前に比べると、ぐっと楽に(通りやすく)なっていました。もちろん私が経験を積んでスキルアップしたことも影響しているでしょうけれど、人手不足で売り手市場という社会情勢もあると思います。転職したいけどうまくいくかどうか不安だから様子を見ていたという人は、今がその時機といえるかもしれません。

さて、書類選考を通過したら面接があります。面接に臨む前に、私はその会社のことをとことん調べます。知り合いが勤めていたり、過去に勤務していたことがあったりしたら会いに行って話を聞きますし、その会社のプレスリリースやメディアに取り上げられた記事にはくまなく目を通します。でも、これは数を打つときのやり方ではないですね。

あくまで、私の今の境遇、目的の場合のやり方です。今回私は、忙しい世代をサポートする人材として組織に加わることを目的として、焦らず転職活動をしていたので、このやり方ができたと思います。

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こちらから辞退した企業もある
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ちなみに今回の転職活動では1社だけ面接をこちらから辞退しました。書類選考通過のご連絡をいただいたのが、応募から1か月ほど経った頃でした。他の会社の選考は軒並み次の段階へ進んでいましたし、応募者に対してリスペクトがない気がしたからです。今は、応募から24時間以内に連絡があって面接の日程調整が始まる企業も多いので、遅いところは悪目立ちします。企業が従業員を選ぶ権利があるように、働き手にも企業を選ぶ権利があります。

企業が求めるスキルについてストーリー仕立てで語る

面接で何を話すべきか。これも応募書類を作るときと同じで、“その会社のニーズにマッチする自分”を強調するのが鉄則です。まっとうな企業は、自分たちがどんな人材を採用したいか、そのためにこの面接で何を確認したいか、事前にアナウンスしてくれます。相手が求めるスキルについては、ストーリーとして語れるようにしておくことが大切です。過去の仕事でどんな課題に向き合って、どんな解決策を出せたのか、具体的に語ること。

大きく見せる必要はない

このとき、自分を実態とかけ離れて大きく見せる必要はありません。成功体験ばかりを語る必要もない。失敗談であっても、なぜ失敗したのか、どうすれば回避できたか、失敗した後にどうリカバリーできたか、その経験をどう生かせそうかを語れれば、それは面接官に響きます。

数社の転職面接を経験して感じたことは、企業は今、リスクを計算して行動できる人を求めているということです。判断力と言い換えてもいい。リスクが小さい場面でも、上の人の指示があるまで行動できない人は、この時代のビジネスのスピードについていけません。言われたことをやるだけの人が就ける仕事は減ってきているように思います。

面接で語った前職ホテルでのトラブル「電話機が1台もない」

リスクを計算し、リスクを取って行動した例として、私が面接でよく話したのが、前職のホテルでのエピソードです。昨年7月まで私が社長をしていたホテルチェーンで、日本に第1号のホテルをオープンさせようというときに、手違いがあって客室用の電話機が1台も届いていないというトラブルが発生しました。チームのメンバーはみんな開業を延期しようと言いました。「電話機がないビジネスホテルなんか見たことがない」と言うんですね。

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トラブルへの対処法も面接ではアピール材料に
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でも、私は自分の判断で、予定通り開業することにしました。「○○ってこういうもの」「本来こうあるべき」という考え方が嫌いなんです。思い込みや、なんとなく定着しただけの“常識”にとらわれず、自分で考えて判断したい。この場合でいえば、お客さまは皆さんスマートフォンをお持ちだし、エレベーター前には固定電話が置いてあります。客室に電話がなくても影響は小さいはずだと考えました。

開業後もクレームはなし

実際、開業後にそのことでクレームが入ることはなく、旅行サイトの口コミを確認しても「電話がなくて不便」といった投稿は見られませんでした。結果で確信が持てたので、2軒目、3軒目のホテルをオープンする際には、最初から電話機を導入しない判断をしました。

1軒目の開業をもし遅らせていたら、売り上げがないのに社員の人件費が出ていくので、赤字がかさんだでしょうね。それを避けることができました。さらに、失敗で始まったこと(客室に電話のないホテル)を実証実験がわりにして、2軒目、3軒目の設備の考え方に生かし、コストを圧縮できました。この話は、どの企業の面接でもウケがよかったです。

面接では自分が選ぶ目線も必要、企業との相性を確認すべし

面接では、相手の質問や話しぶりから企業の文化や社風を感じ取り、相性を確認することも大切です。求めるスキルがあるかどうかを判断するための質問を、いろんな角度から投げかけてくる会社は信用できますね。大事なことなので、深く追及してもらって全然構わない。こちらも全力で答えます。

薄井シンシアさん
面接では自分が選ぶ目線も必要というシンシアさん
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一方、面接を受けたなかで1社だけ、私から日をおかずにお断りした会社があります。面接官の方が、私から質問したわけでもないのに「うちは65歳定年なんですよ」とおっしゃって。「健康上の問題はありませんか?」とも質問なさったので、年齢差別のニュアンスを感じました。別の方が「定年を70歳に延長する制度を、会社として導入する方向で検討しているところです」と補足してくださいましたが、一度ネガティブな印象を持ってしまうと難しいです。

「失礼だなと感じたら断るべき」

私が63歳で、年齢差別を受けて嫌な気持ちになったという正直な心の動きは否定しませんが、感情の問題とは別に、先入観や偏見を隠さないスタッフが面接官を務める会社だというのも、やっぱり気になるところでした。

ざっくりした言い方になりますが、失礼だなと感じる会社は断るべきです。採用市場の在り方が変わっているのに気が付かず、いつまでも「雇ってやるかどうかこっちで決める」とふんぞり返っている会社は先が心配です。

また、応募者もその会社が手掛けているBtoCやBtoBtoCのビジネスのお客さまであるか、今後そうなる可能性があるのに、そうした想像ができていないのもどうだろうと思います。

面接はどちらの立場が上で、どちらが下というものではありません。マッチングの場です。こちらが偉そうにするのはおかしいですが、変にへりくだったり我慢したりする必要はありません。仕事をする場を選ぶのですから、あくまで合理的にいきたいですね。

◆薄井シンシアさん

薄井シンシアさん
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1959年、フィリピンの華僑の家に生まれる。結婚後、30歳で出産し、専業主婦に。47歳で再就職。娘が通う高校のカフェテリアで仕事を始め、日本に帰国後は、時給1300円の電話受付の仕事を経てANAインターコンチネンタルホテル東京に入社。3年で営業開発担当副支配人になり、シャングリ・ラ 東京に転職。2018年、日本コカ・コーラに入社し、オリンピックホスピタリティー担当就任するも五輪延期により失職。2021年5月から2022年7月までLOF Hotel Management 日本法人社長を務める。2022年11月、外資系IT企業に入社し、イベントマネジャーとして活躍中。近著に『人生は、もっと、自分で決めていい』(日経BP)。@UsuiCynthia

撮影/黒石あみ 構成/赤坂麻実

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