「オヤジの頭蓋骨をかち割れるかよ」
「合理的で悪くないことと思ったんだけどなぁ」と、ここまで一気に話した彼は、なぜか言葉に詰まって手にしていたワイングラスをテーブルに置いたんだわ。子供みたいにグーの手で目頭をグリグリして泣いているのよ。
「父親が亡くなり、父親の骨が入った骨壺を木の下に掘った穴に入れようとしたら、係の人が『壺は埋められません』と言うんだわ。じゃあ、どうするのかと聞くと、『これでできるだけ細かく骨を砕いてください』ってトンカチを渡されたんだけどさ。オヤジの骨だよ。頭蓋骨をかち割れるかよ」
とはいえ、「みなさん、そうして頂いています」と言われたら従うしかない。そして「オレはいったい何をしているのかと思いながらオヤジの骨を砕いたけど、あの時のイヤ~な手の感触は、なんだったんだろうと思うんだよな」と言うんだわ。
後から落ち着いてパンフレットを見たら別料金を払えば骨の粉砕まで業者にお願いできたそうだけど、「そういう問題じゃないんだよな」と彼はしばらくカウンターにたれた頭をあげなかったの。
何年も前の話で、それから彼とは会っていない。樹木葬の様式も今は変わっていると思う。その業者がたまたまそのやり方だっただけかもしれない。それでも私は「冠婚葬祭に個性は無用。口出しも無用で人がやるようにやる」と決めているんだ。
なまじ「葬式はいらない」とか「墓はいらない」とか言ったら、残された人が苦労するもの。その時がきたら、その時にできることを出来る範囲でしてもらえばいいんじゃないの? 去年の春、93歳で亡くなった母ちゃんは、「死んだら知らない」と言っていたけどそれでいいと思うんだよね。
◆ライター・オバ記者(野原広子)
1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。昨年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。
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