
職場にかかってきた電話をいつも自分がとっている、定時間際に仕事を頼まれる、など職場は小さなイライラが積み重なりやすい場所。一方で、『ついイラッときても感情的に反応しない方法を一冊にまとめてみた』(アスコム)を上梓した精神科医の和田秀樹さんは、気持ちよく仕事ができたほうが効率もアップすると話します。そのための方法について教えてもらいました。
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渋々仕事をすると能率が下がるばかり
早く帰りたいと思っている日に限って、定時間際に仕事を頼まれたりすることもあるでしょう。 しかし、怒りに任せて断ってしまうのも、今後の仕事や職場での関係性などを踏まえると考えものだと、和田さんは話します。そんなときは、怒りに目を向けず、とにかく仕事に集中すべきなのだそうです。

「私も実感することですが、怒りを抱えながら渋々やる仕事は、能率が上がりません。ミスも起こしやすくなります。ミスが生まれれば、『クソッ』と怒りもぶり返します。せっかく、 大事な時間を使ってやった仕事なのに、ミスがあれば、評価をしてもらえません。何のために、怒りを抑えてやったのか、わからなくなってしまいます」(和田さん・以下同)
どうせやらなければいけないのなら、一旦イライラを忘れて質の高い仕事をしたほうが自分のためにもなります。そのための脳科学的なアプローチを実践してみましょう。
カラ元気で前向きに仕事をする
まず、「カラ元気」で元気を演じるのがいいそうです。演じているうちに、本当に元気が芽生えてくるうえ、その姿は余計な仕事を命じざるを得なかった上司にも好意的に映ると言います。

「前向きの気持ちでやる仕事は、知らず知らずのうちに作業効率が上昇します。スキルアップにもつながるのです。上司に求められた仕事の要件をきちんと満たせば、次に頼まれる仕事の内容も変わってくるでしょう。少しずつレベルの高い仕事が任されるようになります。いずれ肩書きも変わってくるかもしれません。今度はステップアップです」
イライラをスキルアップやステップアップにつなげる
スキルアップやステップアップにつながれば、社内で発言力も増します。そうなってくれば、納得いかない仕事を頼まれたとき、不快な表情や怒りを隠して対応せずとも、きちんと自己主張ができる素地が整ってきます。

「仕事に個人的な感情を持ち込まず、ビジネスマン、ビジネスウーマンとして職務をこなしていれば、さまざまな提案や主張が受け入れられるようになるのです。どうせ断れないことなら、怒ってみたり、嫌な顔をせずに、喜んで引き受けるにかぎります。大きなプラスになって返ってきます」
損して得取れの精神で長期的な視点を持つ
社内で電話が鳴っていても誰も出ようとせず、痺れを切らしていつも自分が出る。社内での雑用をいつも自分がやっていると感じるとき、なんだか自分ばかりが損をしているように感じますよね。そんなときには、「損して得取れ」という考え方が重要であると和田さんは言います。

電話を取ることで別の要件が発生して自分の仕事を後回しにせざるを得なくなり、残業を強いられることがあっても、怒りを爆発させてしまうと、自分が悪者にされてしまいます。
「呼び出し音が鳴ったらすぐに取る。 明るく元気に『もしもし』と出ます。電話をかける機会のある人なら、『あそこの会社の電話の対応はすごく良くなったよ』という話をまわりにするかもしれません。そういう人の噂話は、会社の幹部の耳にも、やがては入ってくるものです。 部下を褒められてうれしくない幹部はいません。 部下が褒められるということは、上司にとっては自分が褒められていることと同じです。その結果、幹部はあなたを高く評価することになるはずです」
◆教えてくれた人:精神科医・和田秀樹さん

わだ・ひでき。精神科医。「和田秀樹こころと体のクリニック」院長。1960年、大阪府生まれ。85年に東京大学医学部を卒業。東京大学医学部附属精神神経科助手、アメリカのカールメニンガー精神医学校国際フェローなどを経て、現在は国際医療福祉大学特任教授、川崎幸病院精神科顧問、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師を務める。著書に『ついイラッときても感情的に反応しない方法を一冊にまとめてみた』(アスコム)など。https://hidekiwada.com/
構成/新藤まつり