
春は新しいことにチャレンジしたくなる季節です。ところが、急に無気力や不安感に襲われることもあります。それは「五月病」の影響かもしれません。とくに、ゴールデンウィーク(GW)などの連休明けに起こりやすい五月病について、薬剤師の碇純子さんに、対処方法、メンタルケアによいとされる栄養素や漢方薬について教えてもらいました。
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うつ病にもつながる五月病は早めの対処が重要
毎年、GW明けには「無気力」「不安感」「倦怠感」「不眠」といった症状に悩まされる人が多くいます。これらの症状は五月病と呼ばれ、医学的には「適応障害」と診断されます。

これは、新生活によるストレスや疲労で心身に大きな負荷がかかり、自律神経が乱れることが主な原因です。以下のような症状が2週間以上続く場合は、五月病の可能性があります。
□無気力、何もしていないのに疲れている
□不安感や焦りがある
□気分が落ち込む
□十分に眠れず、疲労感がとれない
□物事に集中できない
□頭が重い、倦怠感がある
□便秘、下痢、腹痛などがある
□人に会いたくない
「ちょっと疲れがたまっているだけ」と、早期の対処を怠ると、うつ病に進展する可能性が報告されているので、「たかが五月病」と見過ごさず、症状が続く場合は早めに受診することをおすすめします。
五月病を乗り切るメンタルケア
普段の生活に、五月病の予防や症状の軽減が期待できる習慣を取り入れてみましょう。
よい睡眠習慣を心がける
GWなどの連休は、夜ふかしをしたり、家でダラダラと過ごしたり、生活習慣が乱れがちになります。睡眠の質が低下し、メンタルが不安定になることで五月病にかかりやすくなります。逆に、睡眠の質が高まり、自律神経の働きが整うと、ストレスへの耐性や回復が向上し、メンタルの揺らぎを軽減させることが期待できます。

睡眠の質を高めるには、「夕食は就寝の3時間前までにとる」「就寝の1時間前はパソコンやスマートフォンのブルーライトを避ける」「就寝の1時間前に入浴する」「リラックス効果のあるアロマを寝室に焚く」といった方法があります。
マインドフルネス瞑想をする
マインドフルネス瞑想とは、“「今この瞬間」 に意識を集中して無駄な思考を省き、「物事をありのままに受け入れる」という考え方”で行う瞑想です。精神的なストレスを軽減し、心の安定を得るのに役立ちます。
マインドフルネス瞑想のやり方は以下の通りです。
【1】椅子に座る、または坐禅を組み、正しい姿勢をとる。
【2】怖くなければ目を閉じ、心の中で「私は今吸っている。私は今吐いている」と考えながら、呼吸ひとつひとつに意識を向けて行う
【3】瞑想中に出てくる感情や考えに邪魔されても、すぐに呼吸に意識を向け、自然な呼吸をしながら、5分間続ける。

「心の筋トレ」とも呼ばれているマインドフルネス瞑想。瞑想を続けていくと、感情や考えに邪魔をされる時間が少なくなり、呼吸だけに集中できる時間が長くなっていきます。
これを毎日続けていると、ネガティブな感情が和らぎ、無気力や不安感から開放されます。
五月病の予防におすすめの栄養素&食材
気分が落ち込んだり、睡眠の質が低下したりする可能性がある「セロトニン」不足も、五月病にかかりやすくなる原因です。幸せホルモンとして知られる脳内物質のセロトニンを増やす栄養素は、主に「トリプトファン」や「ビタミンB6」、「炭水化物」です。

そこで、トリプトファンとビタミンB6を多く含むサバ缶と春レタス、ビタミンBが豊富な炒りごまを使った簡単サラダを紹介します。
「レタスの鯖缶煮」のレシピ
《材料》(2人分)
レタス:1玉、鯖の味付け缶:1缶、酒:大さじ1、
炒りごま:適量、焼きのり:適量
《作り方》
【1】手でちぎったレタス、鯖の味付け缶(汁ごと)、酒を鍋に入れる
【2】火にかけ煮たったら、蓋をして弱火で1〜2分程度、レタスがしんなりするまで煮る
【3】火を止めて、炒りごまを混ぜる
【4】器に盛りつけ、細く切った焼きのりを振りかけたらできあがり
とくに食生活が乱れやすい連休中は、セロトニンを意識した食事を取り入れることが大切です。
春のメンタルケアにおすすめの漢方薬
メンタル不調の原因にはほかにも、ホルモンバランスの乱れなどが考えられます。漢方薬にはホルモンバランスや自律神経の乱れを整える作用があるものや、気分の落ち込みを改善したり、消化・吸収機能に働きかけ、体の内側から心を元気にするものがあります。

漢方薬は心療内科でも自然由来の医薬品として処方され、免疫力を上げたり、自律神経を整えたりすることで、心の不調を体から改善します。
五月病対策におすすめの漢方薬
・加味逍遙散(かみしょうようさん)
「気」(エネルギー)の流れを整え「血」(栄養)を補うことで、精神を安定させ、うつ、神経症を改善します。また、体にこもった熱を冷ますので、のぼせやめまいといった更年期の症状にも使用されています。
・半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
「気」(エネルギー)のめぐりを促すことで、イライラ、不安、喉のつかえ感、不眠、動悸などを改善します。また、胃の働きを整える働きがあり、消化不良、膨満感、胃炎にも用いられます。
漢方薬を始めるときの注意点
漢方薬は食事の工夫などでは不調が改善しなかった人でも、効果を感じる場合が多くあります。
ただし、漢方薬はその人の体質に合っていないと、よい効果が見込めないだけでなく、副作用が起こることもあります。自分に合う漢方薬を見つけるために、服用の際は漢方に詳しい医師や薬剤師に相談するのが安心です。
◆教えてくれた人:薬剤師・碇純子さん

いかり・すみこ。薬剤師。 神戸薬科大学大学院薬学研究科、大阪大学大学院生命機能研究科を修了し、漢方薬の作用機序を科学的に解明するため、大阪大学で博士研究員として従事。現在は細胞生物学と漢方薬の知識と経験を活かして、漢方薬製剤の研究開発を行う。世界中の人々に漢方薬で健康になってもらいたいという想いからオンラインAI漢方「あんしん漢方」(https://www.kamposupport.com/anshin1.0/lp/)で情報発信を行っている。