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『アジアの純真』『愛のしるし』がCM、SNSでリバイバル!やっぱりPUFFYは「自然体のプロ」だった

『アジアの純真』が収録された1stアルバム『amiyumi』(1996年7月発売)。
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今年1月からテレビ放映され、インパクト大で話題となったマクドナルドのCMシリーズ。PUFFYの大貫亜美と吉村由美に扮した西野七瀬と飯豊まりえが期間限定デュオを結成、『アジアの純真』ならぬ『アジアのジューシー』を歌いました。同じく漫才コンビの笑い飯がCMで歌ったのは『アジアの晩飯』。さらに昨年は森七菜らのTikTok投稿をきっかけに1998年のヒット曲『愛のしるし』がバズるなど、デビュー30年近く経った今も“脱力系アーティスト”PUFFYの楽曲は多方面から注目を集めています。そんなPUFFYの魅力の秘密を、ライター田中稲さんが考察します。

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PUFFYが1996年5月『アジアの純真』でデビューしてから27年! 私にとって、こんなに謎のアイドルはいない。いや、アイドルなのかアーティストなのか、このあたりも揺らいでいる。ジャンル的にはゆるキャラに近いような気もする(褒めています!)。多分、CDジャケットに描かれていた、ロドニー・A・グリーンブラットのイラストキャラクターがインパクト大だったせいもある。

しかし、それだけではない。突然感がすごかったのだ。ある日歌番組を見たら『アジアの純真』を歌っていて、エエッ、普段着でブラブラ手を振りながら踊っているこのカワイイ2人は誰? 北京とかベルリンとかリベリアとか何? とビックリした。そして呆気にとられているうちに、スターダムにのし上がっていった──。

しかも、ワッと出てワッと消えるならわかるのだが、PUFFYはとにかく息が長い。デビューから30年近くになるがコンビ解消をせず、世界観も守り続けている彼女たち。しかも、令和に入り、再ブームが来ている!

デビュー20周年でNHK紅白に出場も(写真は2016年、Ph/SHOGAKUKAN)
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ゆる〜く踊るスタイルは新鮮だった

そもそも、『アジアの純真』がヒットした1996年といえば、小室哲哉プロデュース全盛期。流行語大賞に「アムラー」がノミネートされ、年間カラオケランキング第1位は華原朋美さんの『I’m Proud』が輝いた、そんな時代だ。

小室ファミリー以外にも、SPEEDに相川七瀬さんにJUDY AND MARYに大黒摩季さんなどなど、超実力ニューカマーがズラリ! 加えてベテラン勢も松田聖子さんが『あなたに逢いたくて〜Missing You』、酒井法子さんが『鏡のドレス』をヒットさせ、気を吐いていた。当時朝日新聞がこの年を総括して「女性元気印」と表現するほど、ガールズパワーが日本に熱風を巻き起こしていたのだ。

ハイスペック軍団がワサワサいるなか、Tシャツとジーンズでゆる〜く踊るスタイルは、確かに新鮮だった。ただ、それだけでは年間カラオケランキングで、『I’m Proud』に続き2位をゲットするなど絶対無理。あの、洗練されているのに、不思議と土臭さを思わせるセンスは、単なるノリでは出せない!

実際、大貫亜美さんと吉村由美さんは、テレビやインタビューで、プロデューサーの奥田民生さんは、とても厳しかったと語っている。一番長い時で、レコーディングが1日13時間かかったこともあったそうだ。振り付けは南流石さん。真似されやすいように、引き算の振り付けを考えたのだという。

PUFFYの歌や踊りは「多幸感のお手本」だった(写真は2015年、Ph/SHOGAKUKAN)
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なるほど、PUFFYは「自然体のプロ」だった! 1996年の流行語大賞には「閉塞感」という言葉もノミネートされていた。彼女たちの存在は、不景気や世紀末の不安に苦しむあの時代、深呼吸のタイミングをもたらした気がする。PUFFYの歌や踊りは、すべてが「自分も楽しくできそう」と思えた。いわば「すぐに実感できる、多幸感のお手本」だった気がするのだ。

TikTokでバズった『愛のしるし』

とはいえ、私がPUFFYを好きになったのは2ndシングル『これが私の生きる道』からである。正直、『アジアの純真』はいまだにミステリアスソング。北京から始まる冒頭の歌詞は、何の意味があるのか。もしかして暗号?!

調べてみると、井上陽水さんが、奥田民生さんのデモテープの鼻歌を聴いた際、空耳でそう聞こえたからで、特に意味はないという。

出た、神々の遊び……!

私はこういった「意味はないけど面白く成り立たせる天才の技」は、すばらしいと思う。しかし同時に「ハイハイ、センスがあっていいですね!」と嫉妬してしまう悪いクセがある。

それでも、時々無意識的に鼻歌で出てしまうのだ。「北京ベルリン……ぬおおおチックショー!!」

歌ってから、その中毒性にまんまとハマっている自分に気づき悔しくなる。結局、私がよく歌う鼻歌ベストテンの「90年代JPOP部門」をカウントするならば、『アジアの純真』はスピッツの『ロビンソン』とトップを争うと思う。悔しいが!

2000年代にはアメリカ公演を果たし、世界を席巻(写真は2005年、Ph/SHOGAKUKAN)
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昨年TikTokでアップされた振付動画バズったのがきっかけで、再び人気が急上昇している『愛のしるし』も脳内再生力は凄まじい。ああ、タイトルを書いただけで聴こえてくる、デーンドーンデーンドーンというイントロ。スピッツのボーカル、草野マサムネさん作詞作曲によるあの印象深いフレーズ。腕をエッセホイサと横に揺らす振り付け! 体が、体が勝手に動く!

PUFFYの曲は脳にガッツリ染みつく独特の粘着力がある。

簡単だけでは、真似しない。かわいいだけでは、続かない。

昔も今も、手をつなぎ、たららん、たららん、と散歩するように歌う2人のテンションに、つられてしまうのだ。そして、一緒に笑顔で楽しみたい! と思うのだ。

◆ライター・田中稲

田中稲
ライター・田中稲さん
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1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka

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