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ロングヒット曲は『夏の日の1993』ほか多数!歌謡ライターが振り返る「1993(イチキューキューサン)の奇跡」

1993年にはその後ロングヒットとなる曲が多数生まれた
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リリースから、ちょうど30年──。2023年の夏を前にライターの田中稲さんが思い出すのは、男性デュオclassのデビュー曲にして最大のヒットとなった『夏の日の1993』です。現在40代以上の人なら今でもすぐに口ずさむことができそうなほど売れたミリオンナンバー。ロングヒットとなった秘密を、同じく1993年にヒットしたその他の名曲を交えながら田中さんが考察します。

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今回は「30年前にタイムトラベル」企画である! 30年前といえば1993年。今、「1993」という数字を見ただけで、自然とあの歌が口から出た方もいらっしゃるのではないかと思う。そう、「あの歌」とは『夏の日の1993』!

私も同じ。サビの少し前の「セイエイエイラーブ♪」「ソゥオゥオゥターイ♪」という、ヨーロレヒヒ〜♪みたいなヨーデルっぽい部分をすぐに思い出し、ついついモノマネ付きで歌ってしまう。

なぜこの曲はこんなにロングヒットしたのか。それを探ってみたい。かくして、私の「夏の日の1993を思い出す2023」が始まった——。

下心全開で浮かれまくった「夏の日」

この曲のポイントは「下心全開」と言い切っていい。夏、海水浴に行き、別になんとも思っていなかった子の水着姿を見て、ヒョー! プロポーションがこんなにいいとは思わなかった! とテンションが上がり、恋に落ちるというストーリー。あまりにも素直、言い方を変えれば露骨な感情が爽やかなメロディーに乗り展開される。

歌詞の世界とはいえ、ここまで躊躇なく浮かれられると、聞き手も「わかるわかる」という共感、「引くわ〜」という反感、両方シンプルに反応できる。そして、夏の海水浴場がいかに心のガードを低くするのかを痛感させられる。

また、『夏の日の1993』というタイトルも秀逸。普通に考えれば「1993の夏の日」のはず。それが逆さになっていることで、なんだかもうテンション上がりすぎて、いろんなことが混乱している様が見えてくる。また、タイトルは「イチキューキューサン」読みなのに、サビは「ナインティーナインスリー」と英語で歌われるという読み方の揺れも、恋をして正常な判断ができない状態であることがうかがえる!

classのデビュー曲『夏の日の1993』。その後、アンサーソングも作られた
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そして「1993」自体がもう、年号の意味だけでなく、本音と欲情が詰まった心の扉を開ける、パスワードの意味を持って聴こえてくるのである。

とはいえ、私はこれをリアルタイムで聴いたとき、「ビーチでクラクラした恋なんて成就するわけがない。この主人公、フラれる!」と勝手に想像していた。

ところが2009年に『冬の日の2009』というアンサーソングがリリースされ、なんと二人は結婚。マンネリやケンカを乗り越え、15年後の冬も、お互いの笑顔を大切にしよう、と誓い合っていたのだ!

マジか……(驚)。純愛じゃないか! 歌の世界の話ながらものすごく嬉しくなった。個人的には、こちらの歌詞のほうが好きだ!

1993年はロングヒット曲の当たり年

さて、今でも多くの人の心をとらえて離さない『夏の日の1993』だが、不思議にも、1993年は、この手のロングヒットがとにかく多い。名付けて「1993(イチキューキューサン)の奇跡」!

この年、何か特別な電波が飛んでいたのか、気の長い音楽の神様がはりきったのか——。

結婚式の超定番曲、山根康広さんの『Get Along Together〜愛を贈りたいから〜』がリリースされたのもこの年だ。ちなみに、エンダーイヤー!! で有名なホイットニー・ヒューストンの『オールウェイズ・ラブ・ユー』もリリースは1992年だがヒットしたのは1993年!

結婚式での定番ソングとなった
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私も友人の結婚式に数度出たが、その多くで「エンダーイヤー!」がかかっていたし、『Get Along Together〜愛を贈りたいから〜』を、マイギター持参で上手に歌っていた人がいることを覚えている。

そのほかにも、『ロード』(THE虎舞竜)、『負けないで』(ZARD)、『島唄(オリジナル・ヴァージョン)』(THE BOOM)、『最後の雨』(中西保志 ※リリースは1992年)など、1993年にヒットした曲は世代を超えて愛され続け、口ずさめる歌が多い!

また、コムロブームの先駆けとなった、trfの『EZ DO DANCE』の発売も1993年。この曲は時代を変えるパワーだけでなく、粘り強さもあった。30年という時の流れのなか、クラブはもちろん、エクササイズやSNSなど、あらゆるシーンのニーズに応えられるエターナルなヒット曲に成長している!

ただ、1993年の世相を見てみると、決して華やかな出来事ばかりではない。皇太子・雅子さま御結婚、新幹線「のぞみ」が山陽新幹線で運行開始、レインボーブリッジが開通という素晴らしいニュースもあったけれど、経済面ではバブルがはじけて株価や地価が急下降。「リストラ」が流行語大賞候補に入るなど、苦しい時期でもあったのだ。確かに、なんでもないようなことが幸せだったと気付く年、それが1993年だったのかもしれない。

ZARD『負けないで』は応援ソングの定番に
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ただ、時代が混沌としているときほど、音楽シーンは強力なうねりが出て面白くなるのも事実。人々を鼓舞する歌、課題を投げかける歌、ストレートに絶望を歌う歌。停滞するエネルギーをかき回し、動かすように、いろんな歌が生まれていく——。

思わぬ、1993年のヒット曲の興味深さを知ることができた今回。このタイムトラベルに誘ってくれた『夏の日の1993』にお礼を言わねばなるまい。ありがとう、30年前の夏の日の君!

◆ライター・田中稲

田中稲
ライター・田中稲さん
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1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka

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