
動かなくても汗がにじんで体力が奪われてしまう猛暑が去ったのに、まだ食欲不振やだるさといった体の不調が治らない……。それは晩夏特有の胃腸トラブルかもしれません。季節変わりの胃腸の不調について、医学博士の高尾美穂さんに聞きました。
胃腸はメンタルに影響されやすい
そろそろ暑い夏から解放されると感じるころに、思わぬ体調不良を経験することもあります。高尾さんは「夏の後半になると、胃腸の調子が悪くなることがあります」と話します。
「そもそも夏は、暑い外では毛細血管を広げて体内の熱を放出し、冷房の効いた涼しい室内では血管を細くして体温を逃がさないようにする、そんな調節を頻繁に行わせているため、自律神経に負荷がかかる季節です。
さらに言うならば、夏から秋にかけての気温の変化に追いついていくのも、体にとってはストレスになり得ます。そのストレスがお腹の不調に現れるのです。

緊張するとお腹が痛くなるのは、胃腸はメンタルに影響されやすいから。自律神経の切り替わりで血流が変わるのですが、体が緊張状態のときは交感神経が優位になり血管が収縮して血流が滞ります。胃や腸は血管が集中しているため、血液量が減ると食べたものの消化も吸収も悪くなって、消化不良や食欲不振になってしまうのです」(高尾さん・以下同)
「寒暖差疲労」になることも
胃の働きは胃酸を分泌して消化を促すことですが、この活動が不安定になることも、胃腸にダメージを与えます。
「胃酸の分泌が多すぎれば胃の粘膜が攻撃されて、胃が重くなったりキリキリと痛くなったりします。一方、胃酸が少ないと消化不良で胃もたれになったりお腹が張ったりします」
気温差に対応するために自律神経が働きすぎて体調不良になることを「寒暖差疲労」ともいいます。胃腸の不調はストレスのサインかもしれません。
水分補給は飲み方次第で冷えやむくみの原因に
自律神経以外にも、飲み物や食べ物はダイレクトに胃腸に影響を及ぼします。
「夏は冷たい飲み物やアイスクリームがおいしく感じる季節ですね。けれども一気に取り込んで腸が冷えると、下痢の原因になります。氷を入れたジュースやキンキンに冷えたビールをがまんする必要はありませんが、量や頻度をおさえたいところです。また、あえて体温に近いようなものから口にすることで、胃腸の負担を軽減することができます。飲食もメリハリが大切です」

塩分の摂りすぎにも注意
暑い日は汗で体内の水分を失ってしまうので、こまめな水分補給は必要ですが、飲み方次第では冷えやむくみの原因になるそうです。
「もし塩分を摂りすぎている場合は、体の塩分濃度を薄めようと、補給した水分を排出せずに溜め込んでしまいます。これがむくみの原因になり、体の冷えにもつながります。また、それほど食べていなくても夏に体重が落ちないのは、こうして水分を溜め込んだ状態だからかもしれません」
胃腸を休めるためにも1日3食にとらわれない
胃腸の不調は、自律神経を整えて食事を意識することで改善しそうです。
「自律神経には、交感神経と副交感神経があります。交感神経は緊張したり興奮したりすると働くもので、胃腸の働きを鈍くしてしまいます。そこで、リラックスするときに働く副交感神経活動を優位にすることが、胃腸の改善につながります。
たとえば運動をすると、一時的に交感神経が優位になりますが、運動後は副交感神経が優位になっていくので自律神経はメリハリある状態で活発に働くことにつながります。スクワットは、室内でも場所を取らずにできるのでおすすめの運動です。また、ゆっくりと深呼吸を繰り返すことも有効ですよ」

胃腸を健やかな状態に保つために、食事面では冷たい食事ばかりとらないこと、そして腸内環境を整える栄養素を取り入れることがポイントです。
納豆、キムチ…発酵食品もおすすめ
「誰もが簡単にできることとして、お腹が空いていない時に無理をして食事を摂らない、という方法があります。私は1日3食にとらわれず、できるだけ“お腹が空いたな”と感じたタイミングで食べるようにしています。特に夏の暑い時や、夏から秋にかけて気温が大きく変化するようなときには、胃腸に消化という負担をかけすぎないようにしたいですね。

また、腸の環境を整えるという意味では、発酵食品がおすすめです。納豆、キムチ、ヨーグルト、ぬか漬けなど、好きな発酵食品を取り入れてください」
胃腸を万全にして、食欲の秋を迎えましょう。
◆教えてくれたのは:医学博士・高尾美穂さん

愛知県出身。イーク表参道副院長。産婦人科専門医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。ヨガ指導者としても女性の健康を支えている。著書に『更年期に効く 美女ヂカラ』(リベラル社)、『大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111』(講談社)など多数。
取材・文/小山内麗香