婦人科でかかりつけ医を持つべき理由
フェムテックは、その名の通り女性の体に関するテクノロジーを研究するだけでなく、女性特有の悩みの解決や、セクシャルウェルネスなど女性の健康に関する多くの問題に取り組むことも含まれていますが、山田さんはさまざまなリサーチをする中で、日本の女性の健康意識の低さを痛感することが多いといいます。
「日本の女性は、健康は二の次という人がたくさんいて、未病に対しても意識が薄いと感じています。日本と違って、アメリカなどの諸外国は健康保険が手厚くないので、自身でのケアが重要な部分が多いですが、日本人は保険があるだけに予防にはあまり関心がないという人もいる。恥ずかしながら、私自身も34歳になるまで一度も婦人科に行ったことがありませんでした。仕事が忙しかったというのと、それまで困ったことがなかったというのが理由です。
初めて婦人科で検査をしたら卵管が詰まっていて、検査の痛みで気を失っちゃったんですよ。200人に1人くらい気を失う人がいるらしく、自分がその1人だったんです。そのときに、『こんな状態で、これから妊娠を考えるなんてとんでもないです』と医師から言われ、初めて自分の体の状態に気づきました」
自身の経験から、早い段階で婦人科に行って自分の体の状況を知っておけば、妊娠や婦人科疾患だけでなく、更年期の乗り越え方も変わるといいます。
「ただ、かかりつけ医がいないと、どうしても病院に行くことを後回しにしがちになりますよね。だから、まずはかかりつけ医がいて、いつでも相談できることが必要。
気がついたら仕事を休まないといけなくなってしまったり、いつのまにか重症になっていたという人もたくさん見てきました。婦人病の不調を放置していると思わぬタイミングで倒れてしまったり、年齢を重ねると更年期の不調が現れたり、といった可能性があることを知っていただくだけでも、女性が活動しやすくなるのではないかと思うんです」
更年期を打ち明けると、周囲の空気がよくなることもある
更年期だからといって休暇を取るのはなかなか難しく、更年期の症状があるとは周囲に言いにくいと考えている女性は多いはず。しかし山田さんは、自身の体調を発信することで、よい循環が生まれることもあるのだと話します。
「年齢的に管理職やマネージャーに更年期世代のかたがたくさんいらっしゃいますが、会社のコミュニティー内で『更年期で体調が悪い』とあえて赤裸々に言うことで、部下や後輩も『実は生理痛がつらくて…』と打ち明けやすい空気感ができると耳にします。
更年期や生理など女性ならではのもので、個人によって症状が異なるような話は、上が言ってくれないと下からは言いづらい。上司が弱みを見せることで、部下も話しやすくなり、お互いの距離が縮まって、補い合いながら協力するチームができるそうなんです。つらいことって、我慢せずに言ってみるのがすごく大事だと思います」
コミュニケーションは「思い込みをなくすこと」が大切
そうは言っても、山田さんも自身の体調に関するコミュニケーションは難しいと感じることもあるそうです。どんなことに気をつけているのでしょう。
「自分から打ち明ける、話を切り出す勇気は大切だと思います。誰しも思い込みがあって、女性ならではの痛みを告白しても、つらいことをアピールしていると思われるのかも…なんて考えがちですよね。本心はそうじゃないのに、もし相手に休みたいだけですよね?なんて思われたら嫌だと考えて、我慢してる人ってたくさんいます。
けれど、意外と現実はそんなことはなくて、思い込みをなくして自分の現状をちゃんと話したほうが、結果的に周りも会社も対処してくれます。思った以上に周りは自分のことを理解したいと思っているし、何とかしたいと思ってくれていることを受け止めてみましょう。まずは言ってみる、ということがすごく大事です」
男性にも打ち明けてほしい、女性の体の悩み
昨年行った男性への共同リサーチの結果、妻や同僚など、女性の健康状況をもっと理解したいと答えた人が80%以上もいたといいます。
「彼らの意見の大多数は、こちらからは聞きづらいし、女性にどんな状況が起こっているのかわからないために、どう対応したらいいのか困っているという声ばかり。この結果って、女性側としては救われますよね。女性の体に関する理解を男性に促すことも、フェムテックが担う役割のひとつだと思っています」