ライター歴45年を迎えたオバ記者こと野原広子(66歳)は一昨年、茨城の実家で母親を介護し、最終的には病院で看取った。在宅介護の日々は苦労が絶えなかったというが、きょうだい間で起こりがちな「介護のお金の問題」とは無縁だったという。なぜか――。
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YouTubeで思い出した母ちゃんのこと
介護もののYouTubeチャンネル「兄のぼる【父の介護クエスト】」にハマっている。都内某所にひとり暮らしをしている超わがままな父親(76歳)の介護を車で片道200km離れた住まいから通って世話をしている長男のぼるさん(36歳)と父親との壮絶なやり取りが紹介されていて、次はどうなるか目が離せないんだわ。
この父息子の争いの元凶はお金。父親がほぼ無年金で、介護保険も払っていなかったので食費などはのぼるさんが負担している。それを「悪いと思っているよ」と言いつつ、あれを買ってこい、これが食いたいと大威張りなのは売れば大金になる家を持っているから。が、その家をガンとして売らない。
ひとごとながら、こんな父親ならさっさと縁を切るわといらいらがつのる。なら見なきゃいいのに、怖いもの見たさでついね。動画を見終えると2年前の春に亡くなった母ちゃんのことを思い出して、ボーッとしたりして。
すんでのところで“事件”にならなかったのは弟のおかげ
すんでのところで“事件”にならなかったのは弟のおかげ。
シモの世話付きの母ちゃんの介護は、生き返ってきた母ちゃんに「あと1日だけ頼む」と言われたとしても断る。黙って立ち去るよ。ポータブルトイレに座るのが間に合わなくて大惨事を起こした時のことを思い出すと、ああ、もう今でも腹が立つもの。這いつくばって自分の粗相を片付けている私に「ん」「ん」と車椅子に座ったまま指図。
その時は「わかっているからッ」と従ったけれど、何かの弾みで「てめえ〜、何様のつもりしてやがんだぁ」って、もうこうなると親でもない、子でもないよ。
断熱材の入っていない日本建築の実家は11月になると冬山に登るような完全防備をしないと寝られない。自宅介護も限界。それで老健(老人介護施設)に入居してくれと母ちゃんに言うと、「そんなことをするならオレはこうしてやっから」と首に手で輪をかけるの。母ちゃんも命がけなら私だってそうだよ。「ああ、やれ、やれ。台に乗るの、手伝ってやっぺか」と言うとものすごい目で睨みつけられたっけ。
そんな過酷な日々だったけれど、すんでの所で「介護疲れの64歳の娘、90歳の母を刺す」というニュースの人にならなかったのは、母ちゃんの介護を代わってくれた弟のおかげだ。つまり介護孤独にならなかったんだよね。