大きかったのはお金の問題がなかったこと
あと大きかったのはお金の問題がまったくなかったこと。思えば母ちゃんはある時を境に「金」の話をしなくなったのよ。私は亡くなる7か月前から帰省したんだけど、その3年前から老健に入居したり、病院に入退院したりを繰り返している。最初のうちは公務員の弟が母ちゃんから財布を預かって支払いをしていたけど、老健に入所してあきらめたんだね。弟に全財産、あっさり預けたのよ。
その時、私は弟から「貯金ン百万円と年金の通帳を預かったから」と聞いている。私にお金を預けたら溶かしてしまうから会計は公務員の弟にするという母ちゃんの判断は正しいと思ったもの。それだけ私は放蕩娘だったのよ。ギャンブルに狂っていた30代から20年間は母ちゃんの顔を見ればなんといってお金をすくねようか、頭の中はそればっか。まぁ、十万円単位で何回引っ張ったかわかんない。
弟から生活費10万円を受け取ってやりくり
そんなわけで、実家に住むようになった私は弟から生活費を10万円預かって、そこから必要なものを買う。その時は、さあ、どんな料理を並べて母ちゃんの食欲を刺激してやろうかと、そればっか。もしあの時、会計担当の弟から「明細を出せ」なんて言われたら、いろんなものをスプーンに乗せて並べてやろうなんて情熱はあっさり失われたと思うよ。
あと母ちゃんを喜ばせたのは、暖かくてかわいいパジャマやピンクのダウンベストなの。激安ファッションのしまむらやサンキまでバイクを走らせて、母ちゃん好みの“派手かわ”を見つけて、家に帰って広げると目の色が変わるのよ。見舞いに来た人にほめられると満面の笑み。
それと月に2度、弟から5万円もらって2泊3日の介護休暇も大きかったよね。それもこれも母ちゃんのン百万円があったからだ。
もしこれらのお金が私と弟の持ち出しだったら…。身動きが取れなくなった自分の頭の上で「金はどうすんだよ」なんて聞きたくないよね。
さささ、せっせと働いて私の老後資金を作ろうっと。
◆ライター・オバ記者(野原広子)
1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。昨年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。
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