
犬や猫が好きで飼っている人なら、もう1頭(1匹)飼いたい、犬同士、猫同士で仲良くしているところを毎日見られたらいいな、と夢見ることがあるのではないでしょうか。多頭飼いに挑戦する場合、飼い主さんはどんなことに注意を払うべきなのか、どんな準備が必要なのか、獣医師の山本昌彦さんに解説してもらいました。
仲良し姿がかわいいだけでなくペットにも利点が
山本さんによれば、「犬や猫の多頭飼いには、メリットとデメリットの両面がある」とのこと。まずは、多頭飼いをすると、どんな楽しいこと、大変なことがあるのか、知ってから多頭飼いをしたいかどうか、自分に問い直してみましょう。まず、犬を多頭飼いする場合のメリットは――。
「犬の場合は、もともと群れをつくって暮らしてきた動物なので、1頭より2頭、3頭でいるほうが寂しくないでしょうね。社会性もある程度、身につくだろうと思います。先住犬の子どもやきょうだいを迎える飼い主さんもいますよ。犬同士で追いかけっこをしたりして遊べば、運動不足が解消されますし、先住犬が飼い主さんからしつけられたことを、後輩犬に教育してくれる可能性もあります」(山本さん・以下同)

そうなると、かわいさは2倍でしつけの手間は1.5倍などで済むかもしれません。猫の場合はどうでしょうか。
「猫は単独行動を好むので、仲間が増えてうれしい感覚は犬ほど強くはないかもしれませんね。でも、遊び相手が増えるのは猫にとってもきっとうれしいことのはず。運動不足の解消は期待できると思いますし、お留守番をしてもらうときの飼い主さんの心の負担が少しだけ減るのではないでしょうか」
デメリットはペットのストレス、飼い主さんの負担増
デメリットはどうでしょうか。もちろん、飼育費用が多くかかります。アニコム損害保険が2023年3月に発表した調査結果によれば、犬を飼うときの年間費用は1頭当たり、平均約36万円、猫は約16万円です。これが2倍、3倍になることを想定しておかなければいけません。
家でするお世話の手間も当然、増えます。犬のしつけに関しては先述したように先住犬が指導的な役割を果たすことで、飼い主さんの手間は倍増までいかない可能性がありますが、例えば急な病気やケガで動物病院に行く回数は倍増する可能性がありますし、タイミングが重なったらそれもまた大変です。
「それから、一番大きなデメリットは、先住犬や先住猫が嫌がる可能性があるということです。犬は飼い主さんのことが大好きなので、あとから来た子に飼い主さんを横取りされたように思ってストレスを感じるかもしれません。猫は飼い主さんの愛情の前に、環境が変わること、自分の場所が侵されることが大きなストレスになりかねません。ストレスがたまると体調を崩したり、猫ならスプレー行動や爪とぎが激しくなったりします」
また、去勢手術/避妊手術をしていないオスとメスが同じ空間にいると、飼い主さんの予定にない妊娠をすることもあります。
犬の多頭飼いのコツは順位の明確化と1on1
では、一緒に暮らす犬同士でストレスを感じ合わずに仲良くなってもらうために、飼い主さんにできることはあるでしょうか。
「これが難しくて。犬は飼い主さんを独り占めしたいというのが本音だと思うので、先住犬と新しく来た子と一緒に遊ぼうとすると、かえって逆効果かもしれません。とにかく何をするのも先住犬を優先して、順位を明確にしたほうが、張り合わずに暮らせて、どちらの子にとってもいい形でしょうね」

特に、犬の食事の順番は、絶対に先住犬が先。軽い気持ちで、後から来た子に先にフードを与えてしまうと混乱を招きます。遊ぶのも身体を撫でるのも、先住犬を優先するのが、犬の平和な多頭飼いの一番のコツだといいます。
「散歩は一緒でもいいのですが、たまには飼い主さんと1頭だけで行けると、愛犬の満足度は増すはずです。仲間と過ごすのも好きな犬たち。でも、一番は飼い主さんにたくさん愛情をかけてもらうことを望んでいるはずなので、それを忘れないようにしたいですね」
猫の多頭飼いはトイレを別に、食事も別に
猫を多頭飼いする場合は、猫同士の距離感を意識する必要があります。最初の1週間ぐらいは新しい子を先住猫とは別の部屋に隔離しておいて、まずは相手の匂いのするものをそれぞれの部屋に差し入れるなど、間接的な交流を。その後、柵など何かさえぎるものを用意して、その隙間越しに安全に対面させます。慣れてきたら、じかに会わせましょう。ケンカするようなら、再び生活空間を分けて冷却期間をおく必要があります。

「猫同士は食事もトイレも別にしておいて、気が向いたときに一緒に遊ぶぐらいの距離感が幸せだと思います。食事は別々の場所で与えるほうが安心できると思います。猫は年齢を重ねると腎臓病を患うなどして療法食に移行するケースが多いので、最初から食べるものはそれぞれ分けておきましょう」
トイレは飼っている猫の数に「1」を足した分だけ用意を
トイレは必ず、飼っている猫の数に「1」を足した分だけ、用意するべきだといいます。2匹なら3個。3匹なら4個です。
「猫は繊細なので、トイレが汚れていると排泄をしなくなることがあります。それに、猫は腎臓病のリスクが高い動物ですから、尿量など排泄物のチェックが欠かせません。1つのトイレを複数の猫で使うと、それぞれの健康状態が分かりにくくなるので、やっぱりトイレは別がいいです。プラス1個を推奨するのは、猫に選択肢を与えるという意味ですね」
多頭飼い、“わが家で可能かどうか”考えて
山本さんは、大前提として、「多頭飼いはどの家庭でもできるわけではない」と言います。先住犬、先住猫の性格、それから住環境、間取り。飼い主さんがペットにかけられる時間や金銭の余裕。これらを総合的に考え合わせて、新しい子を迎えられるかどうか判断することが重要です。
「例えば、柴犬は飼い主との1対1の関係性を非常に大切にする性格なので、比較的、多頭飼いがしづらい犬種といえるかもしれません。もちろん個体差はありますし、実際に多頭飼いできているお宅もありますが、傾向としてはトイプードルやミニチュアダックスフンドなどのフレンドリーな犬種に比べると難しい。
また、どの犬種、猫種であってもビビリの子はいるもので、怖がりが他者への攻撃の形で表れる子だと、多頭飼いは困難かもしれません。新しい子を譲ってもらうときに、お試し同居などがもし許されるなら必ずして、可能性を見極めたいですね」
◆教えてくれたのは:獣医師・山本昌彦さん

獣医師。アニコム先進医療研究所(本社・東京都新宿区)病院運営部長。東京農工大学獣医学科卒業(獣医内科学研究室)。動物病院、アクサ損害保険勤務を経て、現職へ従事。https://www.anicom-sompo.co.jp/
取材・文/赤坂麻実
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