『冬のソナタ』の時代からK-POPや韓国ドラマの取材を続けてきたライター田名部知子さんが、更年期とコロナ禍を経て一念発起、50代後半で長年の夢だった韓国留学に挑戦中だ。取材やプライベートでの渡韓歴は100回を超える韓国通を自負していたものの、いざ住んでみると見える景色もまったく違ったと言う。留学生活もいよいよ後半に差し掛かった田名部さんの次なる目標とは……?
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留学をしてみて初めてわかったことあれこれ
私が通っている西江(ソガン)大学語学堂での勉強は3級からスタートし、現在は7級のクラスに所属しています。学校では、小テスト、中間テスト、期末テストと予想以上に多くのテストがあり、級が上がるごとに時事問題に関する発表や、死刑制度の是非に関するディベートなど、手間のかかる課題が増えました。
留学前の予定では、平日は休まず学校に通い、毎週末ソウルのあちこちをくまなく探索、月に一度は韓国全土を食べ飲み歩きながら、2年間の留学で韓国と韓国語を制覇するつもりでした。けれども実際の留学生活は想像とは違い、週末はあまりの疲労で家から出られないことも。定期テストや課題に追われて引きこもりがちで、この1年半で旅行に出かけたのは、瑞山(ソサン)と釜山(プサン)だけで、それも1泊2日の短い旅行でした。
趣味が飲酒というほど私はお酒が好きで、日本では毎日ワインを飲むのか楽しみだったのですが、ここでの生活で毎日晩酌をしていては翌日授業についていけないため、飲むのは金土のみ、あとはひたすら時計とにらめっこしながら、毎日のルーティーンに沿って粛々と生活しています。
でもそれでいいかなと思っています。一度は住んでみたかった韓国に住めて、自分のためだけの勉強ができて、週末にSNS で評判のお店にご飯を食べに行ったり、話題のコスメをオリーブヤング(韓国のマツモトキヨシ的なコスメショップ)にすぐ買いに行けたり、今はそれだけでじゅうぶん幸せだと思っています。
また語学堂で勉強していて感じたことは、意外に発音を学ぶ機会がないということ。授業中に発音を直されることは、発音自体が間違っていない限りほぼありません。自分の発音は棚に上げますが、特に独学で学んだ時間が長い日本人は、極端に発音の悪い人がいるなと感じています。なので現在発音の勉強は、『カフェトーク』(オンライン習い事サイト)などで、マンツーマンのレッスンを定期的に受けながら矯正するようにしています。
1年半の留学生活で嬉しかったこと、つらかったこと
この1年半を経て、嬉しかったことは三つあります。一つ目は6級の時のグループワークで行った選挙で学級委員に選ばれたこと。グループごとに候補者を立て公約を作り発表したのですが、満場一致で選ばれたことが自信にもつながり、クラスメイトからのエールも心強かったです(実際は年齢で選ばれたのでしょうが……)。
二つ目は住居の再契約時に、家賃の引き下げに成功したことです。オーナーは日本人に好意を持ってくださっている方なので、更新の際に「50代の日本人留学生を応援するつもりで家賃を下げていただけないでしょうか」とお願いしたところ、2万ウォン(約2230円)下げてもらうことができました。ソウルの不動産市場で家賃が年々高騰する中、これは非常にラッキーでした。
三つ目は6級の修了式で、全校生徒の前でスピーチをしたことです。期末テストと重なってスピーチの準備が十分ではなかったものの、57歳の私が壇上に上がって話をするということ自体に大きな意義があるのではないかと思い、準備の不足のまま挑みました。
ところが家でスピーチの練習をしている時、毎回同じところで感極まって泣きそうになってしまい、当日も壇上で嗚咽したらどうしようという不安があったのですが、意外にも当日は気分よく調子に乗れて、逆にたくさんの友達に泣いてもらえて驚きました。でもあとで動画を見たら、想像以上に私の韓国語の発音がひどくて、自分には日本語にしか聞こえないというオチもありました。まだまだ努力が足りません。
一方でつらいことといえば、ますますひどくなる円安と物価高に日々泣かされています。私が日本へのお土産によく買う韓国のり、体のメンテナンスに欠かせない週1回のマッサージなど、私の目の前でいろいろなものの値段がどんどん上がっていきます。先日は近所の個人商店で玉子1パック(15個入り)を買ったら、1万ウォン(約1110円)もして驚きました。一緒に買ったトマトと合わせて1万6000ウォン(約1780円)でした。コロナ前には700~800円で美味しく食べられる定食屋さんがたくさんあったのに、今では1000円以内でランチをするのはかなり難しいのです。
60代目前! 今後の人生をどこでどう生きていくか
コロナウイルスの収束から一定期間が過ぎ、未曾有の円安が続く中でも海外旅行者は増えています。そしてコロナ前の水準には戻っていないものの、海外留学者数も増加しているといいます。2023年、日本の未来教育創造会議がこの10年間で海外留学する日本人学生を50万人まで増やす計画を発表しました。もちろん若年層を対象にした計画ではありますが、これには奨学金プログラムの拡張や、企業による奨学金の返済支援が含まれます。留学は若い世代の特権と思われがちですが、40代~50代以降の熟年留学も密かなブームになっているといいます。
「50代の韓国留学」と題して、「X」で日々発信を続けている私ですが、気づけば50代後半に突入していました。現在はソガン大学語学堂の最上位クラスである7級クラスの2回目を受講中です。当初の計画では、午前中には学校に通い、午後はこの連載を書いたり仕事をしたりと軽やかに過ごすつもりでしたが、実際はこの1年半、勉強しかしてきていません。もちろん勉強に専念することは学生ビザ(D4)の要件を満たすために必要なのですが、このD4ビザは最長2年までしか延長ができず、私の場合、2025年1月末までしか延長できないのです。
そこで私は最近、新たな決心をしました。「韓国に住む」という夢がかなった今、次の夢は「韓国で働く」ことです。もちろん韓国で働くためには就労ビザが必要で、その方法もさまざまですが、私の場合、ビザを発給してくれる企業に就職する必要があるのです。現在57歳という年齢を考慮すると、これは決して容易な道ではありません。また30年近くフリーランスの記者として働いてきて、この年齢で会社員ができるのかという大きな不安もあります。周囲の友人たちが、もうまもなくやってくる定年後を夢見る中で、改めて考えてみると自分でも笑ってしまいます。
でも人脈さえあればたいていのことはクリアできるというのも韓国の魅力の一つなので、これまで築いてきた私の人脈と経験で、韓国で就職することができるのかどうか一度やってみようと努力中です。そしてもし就職が叶わなければ、その時は堂々と胸を張って日本に帰るつもりです。
◆ライター・田名部知子
『冬のソナタ』の時代からK-POP、韓国ドラマを追いかけるオタク記者。女性週刊誌やエンタメ誌を中心に執筆し、取材やプライベートで渡韓回数は100回超え。韓国の食や文化についても発信中。2023年1月、韓国ソウルで留学生活と人生初めての一人暮らしをスタート。大学が集まる新村(シンチョン)にある西江(ソガン)大学の語学堂に通う。twitter.com/t7joshi
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