夏におこる胃腸の不調などの体調不良は、内臓型冷え性が原因の可能性がある。「内臓型冷え性は冷えを自覚しにくく、とくに内臓が冷えやすい夏は注意が必要です」と話すのは、医師の木村眞樹子さん。漢方医学にも精通している木村さんに、内臓型冷え性の原因と対策方法、役立つ食材や漢方について教えてもらった。
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内臓の代謝機能が低下する内臓型冷え性
一般的な冷え性は手足が冷たくなります。しかし、内臓型冷え性は体の内側が冷え、手足は温かいため、冷えに気づかないことがあります。
体の内側が冷えると内臓の働きが弱まり、消化不良による腹痛や下痢、便秘などの胃腸の不調が起きやすくなります。さらに、内臓の代謝機能が低下して体に必要な栄養が不足するため、疲れやすくなったり風邪を引きやすくなったりする原因にもなります。
また、代謝時に熱を生み出す働きも低下することで、内臓周辺の血流が悪くなり、さらに冷えを招くという悪循環にもおちいりやすいです。
内臓型冷え性の原因
内臓型冷え性の原因には、自律神経や生活習慣の乱れが考えられます。とくに夏は内臓が冷える生活習慣になりやすいため注意しましょう。
生活習慣の乱れ
通常、内臓は体温とほぼ同じ温度ですが、冷たいものを食べると一時的に体温よりも低くなります。
たとえば、夏はアイスやそうめんなどの冷たいものを食べる機会が増えますが、食べすぎると胃や腸を直接冷やしてしまいます。そのほか、水分や利尿作用のあるカリウムを豊富に含むきゅうりやトマトなどの夏野菜、すいかや梨などのフルーツも体を冷やす食べものです。さっぱりしたものを求めて、これらの野菜や果物を食べ過ぎると内臓の冷えにつながります。
また、暑いからと入浴をシャワーで済ませるのも冷えにつながる習慣のひとつです。血液は約1分間で全身を1周するため、湯につかると皮膚付近で温められた血液が全身を巡り、内臓も温まります。しかし、シャワーだけではあまり体が温まらず、内臓も冷えたままになってしまうのです。
さらに、暑くて体を動かすことを避けて運動不足になっていたり、スタミナをつけようと糖質や脂質の多い食生活を続けていたりすると、血流が悪くなって内臓へ血液が行き渡らなくなり、内臓の冷えにつながります。
こうした冷えにつながる生活習慣を続けることで慢性的に内臓が冷え、不調につながりやすくなります。
自律神経の乱れ
自律神経には交感神経と副交感神経の2種類があり、お互いにバランスよく働くことで体の機能をコントロールしています。
体は通常、寒くなると交感神経が優位になって血管が収縮し、熱を外に逃さないようにします。ところが、体質的に副交感神経が優位になりやすい人は、血管がゆるんだままになり熱を体内にため込むことができません。
体から熱を逃がすために手や足の表面は温かくなる一方で、体の内側は冷える、内臓型冷え性になりやすいタイプといえます。
内臓型冷え性の対策方法
内臓型冷え性の対策には、適度な運動習慣とお腹を温めることで、自律神経のバランスや血流を改善することが大切です。
運動習慣を身につける
運動は交感神経を刺激するため、相対的に副交感神経の働きが弱まり、自律神経のバランスを整えることにつながります。大切なのは継続して運動することです。ストレッチやウォーキングなどの軽い運動を毎日10〜15分程度行うことを習慣にしましょう。
また、適度な運動には血液の流れを促進して体を温める効果があります。とくに、デスクワークなどで長時間座ったままでいる人は、下半身の筋肉が動かないのでお腹まわりの血流が滞りがちになります。
生活のなかで意識して階段を使う、座ったままでもできるストレッチを定期的に行う、昇降式デスクを活用して立って仕事をする時間をつくるなど、積極的に下半身の筋肉を動かしていきましょう。
お腹を温める
内臓と血液が集中しているお腹の冷えは、内臓の冷えに直結します。温かい食べものや飲みものを摂ったり、保温性の高いインナーやお腹を覆う服などで外気を防いだりしてお腹を温めましょう。とくに夏場は冷房によって冷えやすいため、冷風が直接体に当たらないようエアコンから離れ、カーディガンなどを羽織るなどの工夫をするといいでしょう。
カイロや腹巻きを使うのも有効です。とくに、骨盤の後ろ中央にあり、背骨と腰をつないでいる骨の仙骨のあたりに貼ると効果的です。仙骨には太い血管や神経が集中しており、血流を調整する自律神経も多く通っているのでここを温めると、内臓への血流が促進されます。
内臓型冷え性に役立つ食材
内蔵型冷え性には、夏から秋にかけて旬を迎えるみょうががおすすめです。
みょうがの香りにはα-ピネンという成分が含まれています。これは、胃液の分泌を促したり、血流をよくして体を温めたりする働きがあるので、冷や汁やそうめんなど冷たい食事の薬味にするのがおすすめです。
みょうがの香りは揮発性が高いため、切ってから長時間置いておいたり水にさらしたりすると香りとともに栄養素が失われてしまいます。α‐ピネンを多く摂るには、食べる直前に切り、水にさらすアク抜きは短時間にとどめるようにしましょう。
みょうがのほかには、しそやにんにくなども体を温める作用があるため、ぜひ食事に取り入れてみてください。
内臓型冷え性には漢方薬も役立つ
内臓型冷え性対策には、「水分循環を改善して、冷えを解消する」「血流をよくして、手や足先にまで熱を巡らせる」といった漢方薬を選び、根本改善を目指します。
おすすめの漢方薬
・五積散(ごしゃくさん)
体を温めるとともに、余分な水分を排出することで冷えや冷えからくるしびれや痛みを改善します。疲れやすく、胃腸の弱い人におすすめです。
・当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
余分な水分を排出して血行をよくし、胃腸の働きを高めることで、貧血や冷えを改善します。冷え性で疲れやすく、下半身のむくみが気になる人におすすめです。
漢方薬を始める際の注意点
漢方薬は食事の工夫などでは不調が改善しなかった人でも、効果を感じる場合が多くあります。
ただし、漢方薬はその人の体質に合っていないと、いい効果が見込めないだけでなく、副作用が起こることもあります。自分に合う漢方薬を見つけるために、服用の際は漢方に詳しい医師や薬剤師に相談するのが安心です。
◆教えてくれたのは:医師・木村 眞樹子さん
きむら・まきこ。医師。 都内大学病院、KDDIビルクリニックで循環器内科および内科に在勤。総合内科専門医・循環器内科専門医・日本睡眠学会専門医。産業医として企業の健康経営にも携わる。 自身の妊娠・出産、産業医の経験を経て、予防医学・未病の重要さと東洋医学に着目し、臨床の場でも西洋薬のメリットを生かしながら漢方の処方を行う。 症状・体質に合ったパーソナルな漢方をスマホ一つで相談、症状緩和と根本改善を目指すオンラインAI漢方「あんしん漢方」(https://www.kamposupport.com/anshin1.0/lp/)でもサポートを行う。