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【食卓から天然魚が消える?】「漁師は後継者不足」「国内購買力低下でまぐろの高級部位が外国に」「産地ロンダリングや添加物使用も横行」…水産大国・日本の危機

魚の消費量・生産量は減少傾向となっている(写真/PIXTA)
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良質なたんぱく質や血液サラサラ成分のDHA・EPAほか数多の健康成分を含み、手軽に手に入る「パーフェクト食品」だったはずの魚がいま、危機に瀕している。当たり前に食べていた寿司ネタから混じりものだらけの刺し身パックまで、水産大国の裏側を総力取材した。

日本の魚は消費量・生産量が大きく落ち込み“冬の時代”

四方を海に囲まれ、漁場に恵まれた日本において“海の幸”は食卓を彩るごちそうであると同時に、手軽に手に入る身近な栄養源でもある。スーパーには魚の切り身や刺し身がズラリと並び、回転寿司に行けば安価でおいしい生魚を楽しめる。しかしそんな世界有数の“水産大国”はいま、大きな危機に直面している。水産アナリストの小平桃郎さんが指摘する。

「確かにかつての日本は“とれる魚の量も質も世界一”といわれ、新鮮な魚介類を使った寿司はもちろん、天ぷらやうなぎの蒲焼きなどは日本のソウルフードとして世界に広まり続けています。

しかし一方で、日本の魚は消費量・生産量ともに大きく落ち込み、水産業は“冬の時代”と言わざるを得ない状況が続いている。実際、100円台で豊富な寿司ネタが食べられるはずの回転寿司はコーンやハンバーグ、からあげなどを使った“陸上寿司”や麺類ほかサイドメニュー、スイーツに力を入れるなど、方向転換を余儀なくされている。純粋な魚を使った寿司ネタの消費量は減少傾向にあるといえます」

当たり前に食べていた魚の多くが希少品になる危機が迫っているのだ。日本の魚を取り巻く「不都合な真実」をレポートする。

海外の市場でも“買い手”として魅力に乏しい日本

多くの専門家たちが警鐘を鳴らすのは、国内の漁獲高が大きく落ち込んでいること。水産庁の発表によれば2022年の食用魚介類の自給率は56%。東京オリンピックが開催された1964年には113%もあり、半世紀で半減したことになる。消費者問題研究所代表で食品表示アドバイザーの垣田達哉さんが指摘する。

「その背景には地球環境の変化と水産業の人手不足とが複雑に絡み合い、漁業が立ちゆかなくなっている事実があります。

ただでさえ地球温暖化によって魚の絶対数が減っているうえ、海外からは国産品よりも安価な魚介類が入ってくるため価格競争が厳しく、少子高齢化による漁師の後継者不足もある。漁師の数が激減し、さらに漁獲高が減るというスパイラルに陥っています。今後さらなる自給率の低下が予測され、日本の海産物を取り巻く状況はもっと厳しいものになるでしょう」

現状、すでに日本の食卓に並ぶ魚介類の半数近くは海外産だ。しかし小平さんは海外の市場においても日本は苦境に立たされていると話す。

「いまの日本は港や船、工場なども規模が小さく海外生産品への依存度が高いうえ、習慣として値上げがしにくい環境のもと円安や高齢化の影響もあり消費量が減少している。

世界から見ると“買い手”としての魅力に乏しくなってしまいました。実際、いま日本を含め世界中でとれた水産物の大部分は、中国のバイヤーの強い影響力のもとに置かれ、海上運送の中継拠点となる“ハブ港”である中国や韓国・釜山、タイ、シンガポールなどに集まっている。日本へはそれらの港を経由してから運ばれてくるケースが多く、主要な港としての立場にもない状況です。

そのように買い手としての存在感はすでに小さくなっているにもかかわらず、日本人はあいかわらず品質や規格に厳しいため、世界の生産者や水産業者から相手にされなくなりつつあるのです」(小平さん・以下同)

大とろは日本より高値で売れる中国などへ

とりわけ小平さんが懸念するのは、まぐろの輸入を取り巻く状況だ。

大とろなどの高級な部位は中国へ販売されることが多くなっている(写真/PIXTA)
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「日本はいまでも世界のまぐろ消費量の4分の1を占めているものの、ここ3年ほど前から市場での存在感が弱まってきているといわれています。中国や欧米でも人気のまぐろは、大とろなどの高級な部位は日本より高値で売れるため、一度韓国に運ばれカットされ、高い部位は中国など諸外国に販売、残った赤身が日本に輸入されるケースもあります。

まぐろ流通に関して言えば、日本には運搬船技術や倉庫での保管、加工などを超低温で行う複雑なノウハウがあり、まだ日本にしかできない技術が残されています。しかし、このまま日本国内の購買力が上がらなければ将来的に危機が訪れる可能性はあります。

例えばメキシコ産の養殖黒まぐろは、かつて全輸出量の約8割を日本が輸入していましたが、2021年からアメリカの輸入量が日本を上回るようになり、あと数年で日本の輸入量は2割未満になると予測されています」

まぐろと同じく寿司ネタとして人気の高いうにも、日本の独占状態が今後も続くとは限らない。

海外から輸入されることが多い冷凍うには円安などの影響から輸入価格が高騰している(写真/PIXTA)
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「世界最大のうに漁獲国はチリで、日本で流通している冷凍うにの約9割がチリ産。現時点ではうには日本人以外にはまだ食べる習慣が浸透していないものの、円安などの影響から輸入価格は確実に高騰している。

日本の水産会社は値上げすると売れなくなってしまうので、価格転嫁ができず、チリ側と厳しい価格交渉が続いています。そのためチリのうに漁師は、採算が合わないためかにや貝類、海藻など、ほかの魚種の生産に流れている。

5年ほど前まで大手回転寿司チェーン店ではうに軍艦が100円台で売られていましたが、現在は一時的に姿を消しています。このまま販売コストと消費者の認識のズレが続くと、昨今の海外での寿司ブームにより、チリ産のうにも日本以外の国に主導権を握られてしまう、なんてことになりかねません」

横行する“産地ロンダリング”

警戒すべきは未来の食卓の危機だけではない。現在流通している魚介類の品質も大きく下がっていると垣田さんは話す。

「特に海外から輸入された魚介類の場合、どんな環境で養殖され、どこの工場で加工されたか、消費者が知ることは極めて難しい。とりわけ日本は中国からの輸入が多いですが、中国産の貝類やうなぎなどから、日本の基準を違反する抗菌剤などの成分が検出された事例は過去に何度もあります。また、魚介類は冷凍すればどこまでも運ぶことができるため、国内でとれた魚を日本よりも費用が安い中国の工場に運んで加工するケースもある」(垣田さん)

つまり“国産”と銘打たれていても、油断は禁物なのだ。同様の状況は国内でも起きている。水産物は水揚げした場所を「産地」とすることができるため、「大間のまぐろ」や「下関のふぐ」など、遠くでとれた魚を有名な場所で水揚げだけする“産地ロンダリング”も横行している。

それらの魚介類が刺し身や切り身として売られる際、添加物が加えられていることも見過ごせない。

「スーパーの店頭などで見かけるいかそうめんやまぐろの刺し身は、日持ちさせるために酸化防止剤やpH調整剤などの添加物が使われていることが多い。また、ツヤを出すために植物油が塗り込まれたり、味をよくするために還元水飴や砂糖の調味料が使われていることもある。特にまぐろは酸化しやすいため、ねぎとろには油脂の注入が欠かせません」(垣田さん)

確認すべきは「裏」と「生」

量も質も危機に瀕している日本の海産物だが、私たちの健康維持や食生活には欠かせない存在だ。安心して口にするために垣田さんは、まず見る目を養ってほしいとアドバイスする。

新鮮なはずの刺身パックにも添加物が入ってる場合がある(写真/PIXTA)
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「スーパーなどで刺し身や切り身などを買う際は、パッケージの裏側まで必ず確認してください。添加物が使われていれば、法律上は『生鮮食品』ではなく『加工食品』扱いとなり、『生』と表記ができなくなります。もし加工されていない本まぐろの刺し身を買いたいなら、『“生”本まぐろ』と表記されているものを選ぶこと。また、天然ものでなければ必ず『養殖』の表示がされているので、選ぶ際に参考にしてください」

消費者として意識を変えていくことも大事だ。

「輸入された安い食材ばかりに頼ると、日本の第一次産業はどんどん衰退し、自給率はさらに低下します。もし世界情勢の悪化で輸入がストップしたら、食糧難になるというリスクも懸念される。なるべく国産の魚を積極的に選び、応援するつもりで食卓にのせてほしい」(垣田さん)

安心して海産物を口にできる未来があるかどうかは、私たちにかかっている。

漁獲量や円安などの問題で危機に瀕している主な海の幸
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※女性セブン2024年9月12日号

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