更年期は女性ホルモンが減少することで、寝つきが悪くなったり夜中に何度も目覚めたりするなど、睡眠障害が起こりやすくなる。「更年期の睡眠障害を放置するとQOLの低下を招くだけでなく、高血圧などのリスクも高くなります」と語る医師の木村眞樹子さんに、更年期の睡眠障害に効果的な食材や漢方薬など、対策について教えてもらった。
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更年期に睡眠障害が起きやすい理由
更年期の睡眠障害は、エストロゲンとプロゲステロンという女性ホルモンの分泌量が減ることで起こります。
エストロゲンの分泌量低下は、血管の拡張、収縮をコントロールしている自律神経の乱れにつながり、血管運動神経症状と呼ばれるほてりや発汗が起こります。これが、いわゆるホットフラッシュです。この症状は夜間にもあらわれるため、体が熱くて寝つきが悪くなったり、汗で何度も目が覚めたりと、睡眠をさまたげる原因になります。
また、プロゲステロンには眠りを促す作用があるため、分泌量が減ることで寝つきが悪くなります。
厚生労働省の「知っているようで知らない睡眠のこと 解説書」(https://e-kennet.mhlw.go.jp/wp/wp-content/themes/targis_mhlw/pdf/guide-sleep.pdf
)によると、更年期女性の約半数もの人が不眠に悩まされており、更年期の代表的な症状のひとつといえます。
更年期の睡眠障害による影響
一般的に、睡眠障害は「入眠障害」「中途覚醒」「早朝覚醒」「熟眠障害」の4つに分けられます。
睡眠障害の4つの種類
入眠障害は寝つきが悪く、ベッドに入ってもなかなか眠れない症状です。眠ろうとすればするほど、目がさえてしまうこともあります。
中途覚醒は、夜中に目が覚める症状です。小さな物音や、とくに理由もなく何度も起きてしまうことがあります。早朝覚醒は予定よりも早く目が覚め、再び眠ろうとしても眠れなくなる症状です。眠りが浅く、じゅうぶんに休んだ感覚が得られにくい傾向があります。熟眠障害は、睡眠時間を確保しているにもかかわらず、ぐっすり眠った感覚がない症状です。朝起きたときに疲れが残り、熟睡後のすっきりとした感覚が得られません。
更年期に起こりやすい入眠障害と中途覚醒
このなかでも、ホットフラッシュなどの影響によって更年期に起こりやすいのが入眠障害と中途覚醒です。睡眠の質が下がると、日中に眠気や疲れを感じやすくなります。集中力や作業効率が下がるだけでなく、不眠によるストレスが気分の落ち込みや不安感を招くこともあり、日常生活に支障をきたします。
また、プロゲステロンには呼吸中枢を刺激して気道を広げ、呼吸を促す作用もあるため、分泌量が減少すると、睡眠時無呼吸症候群が起こりやすくなります。
睡眠時無呼吸症候群は、日中の強い眠気に加え、高血圧や動脈硬化などのリスクも高めます。
更年期の睡眠障害の対策方法
更年期の睡眠障害の対策には、睡眠環境を整える、適度に運動する、食事のタイミングや内容を見直すなどが有効です。
睡眠ホルモンをスムーズに分泌させる
眠りを促すホルモンには、プロゲステロンのほかにメラトニンがあります。メラトニンは目から入る光の影響を受け、LEDなど強い光の照明は分泌をさまたげるので、脳をリラックスさせる効果のある暖色の間接照明を使いましょう。
また、スマホの光もメラトニン分泌に影響を与えます。厚生労働省「知っているようで知らない睡眠のこと」(https://e-kennet.mhlw.go.jp/wp/wp-content/themes/targis_mhlw/pdf/leaf-sleep.pdf?1699920000117)では、就寝1時間前からスマホの使用を控えるのがよいとされています。寝室にスマホを持ち込まないなどのルールを作り、習慣化するのも効果的です。
寝床を適温に整えて体温調節をサポート
睡眠に適した寝床内の温度は33度前後(国立精神・神経医療研究センター「温度、湿度と睡眠」https://www.ncnp.go.jp/hospital/guide/sleep-column21.html)とされています。寒い冬の時期は、布団に入る前に湯たんぽや電気毛布で寝具を温めておくことで、体温調節が適切に行われ、寝つきをよくすることにつながります。
さらに、就寝2〜3時間前に入浴して深部体温を上げておくと、放熱のタイミングで自然な眠りに入りやすくなります。更年期のほてりやのぼせがある場合は、足浴などで部分的に体を温めるといいでしょう。(e-ヘルスネット「快眠と生活習慣」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-004.html)
寝つきの悪さが気になるときは、アロマや睡眠用BGMで気分を落ち着け、副交感神経を優位にするのも有効です。
適度に運動する
適度な運動は、交感神経と副交感神経の切り替えをスムーズにする効果が期待できるうえに、程よい疲労感が眠りを促します。また、運動により健康的な体重が維持できると、首まわりの脂肪で気道が圧迫されるのを防ぎ、睡眠時無呼吸症候群の予防や改善にもつながります。
運動の内容としては、就寝前のストレッチと、有酸素運動やレジスタンス運動(筋力トレーニング)が効果的です。寝る前にストレッチをすると、副交感神経が優位になり、体と心の緊張が和らいで寝つきがよくなります。
有酸素運動やレジスタンス運動としては、ウォーキングやラジオ体操、自重による筋力トレーニングなどを定期的に行いましょう。健康長寿ネット「更年期の運動の効果」(https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/undou-kiso/kounenki.html)では、毎週60分、息が弾み汗をかく程度の運動を行うのが理想的としています。
食事のタイミングや内容を見直す
寝る直前の食事は胃腸を活発にするので、眠りを妨げる原因になります。睡眠のためには、夕食は寝る3時間前(厚生労働科学研究成果データベース「睡眠障害の種類と代表的な治療法」https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2018/182091/201817024A_upload/201817024A0015.pdf)までに済ませましょう。
やむを得ず夕食が遅くなる場合は、消化のよいご飯やうどんを主食に、おかずは脂肪分の少ない白身魚などにするのがおすすめです。
また、朝食を食べると体温が上がり、副交感神経から交感神経への切り替えがスムーズになります。朝は体のエネルギーが不足しているため、ご飯やパンといった炭水化物や、卵や牛乳、大豆食品などのたんぱく質を摂るのが理想的です。
とくに、大豆食品には、エストロゲンと似た働きをする大豆イソフラボン(エクオール)が含まれており、ホットフラッシュや睡眠障害などの更年期症状の改善に役立ちます。食品として摂取する大豆イソフラボンの目安は、1日40〜45mg(食品安全委員会「大豆及び大豆イソフラボンに関するQ&A」https://www.fsc.go.jp/sonota/daizu_isoflavone.html)とされています。納豆なら1日1パック、豆腐なら半丁を目安に食べる習慣をつけましょう。