コレステロール、HbA1c、BMI、中性脂肪…気にしすぎなくていい“健康基準値” 厳しい基準によって不安が植え付けられた日本人は「“世界一不健康”だと思い込んでいる」

健康かどうかを測る指標のひとつに健康基準値がある。「正常」の範囲を大きくはずれれば“不健康”と見なされるが、必ずしも基準値を超えているからと言って、健康ではないことも十分にあり得る。むしろその基準に頼りすぎると、かえって体を壊すこともあるのだ。【前後編の後編。前編から読む】
《コレステロール》女性の心筋梗塞は男性の4分の1
女性は閉経をきっかけに女性ホルモンの分泌量が減少し、「悪玉」といわれるLDLコレステロール値が上昇しやすくなるといわれる。LDLが140mg/dL以上あると脂質異常症と診断されるが、LDLを「悪玉」とするのは間違いだと、東海大学名誉教授で健康診断の数値に詳しい大櫛陽一さんは言う。
「コレステロールは細胞膜や神経細胞、ホルモンを作る材料になり、LDLはコレステロールを必要な細胞に運んでいる。
コレステロールが不足すると細胞膜に穴が開きやすくなり、ウイルスの侵入を許して感染症にかかりやすくなる。新型コロナが流行したときもLDL値が低い人ほど感染しやすく、亡くなりやすいということがわかった。閉経後に自然と上昇する人はむしろ長生きする傾向があります」
精神科医の和田秀樹さんが続ける。
「コレステロール値を下げれば体の免疫機能が低下するので、がんを発症しやすくなるという研究が多数ある。コレステロールが減ると脳のセロトニンも減少するのでうつ病になりやすいですし、女性ホルモンが不足して骨粗しょう症になるリスクも高くなります」
遺伝性の家族性高コレステロール血症は例外だ。

「遺伝子異常による高コレステロール血症の人の一部は、血栓を起こしやすくなる遺伝子異常も持ち合わせているため、50代くらいで心筋梗塞を起こしやすい。LDL値が190mg/dL以上と非常に高く、HDL値は40mg/dL程度と低いのが特徴です。
一方、日本人女性に多い高コレステロールは、LDL値が180mg/dLでHDL値は80mg/dL程度で長寿因子なのです。欧米では1回だけLDL値を調べ、遺伝症でなければ、その後の検査は不要といわれています」(大櫛さん)
和田さんは治療に用いられる薬の問題を指摘する。
「コレステロール値を下げる『スタチン系』には筋肉が壊れる『横紋筋融解症』という副作用がある。コレステロール値を下げると心筋梗塞が減るというアメリカの研究データがありますが、そもそも肥満が少ない日本人は急性心筋梗塞で亡くなる人が少ない。がんで亡くなる人の12分の1で、女性の心筋梗塞は男性の4分の1程度ともっと少ないので、のむ必要がないのです」
《HbA1c・BMI》下げすぎは倒れるリスク
ほかにも気にしすぎなくていい基準値はある。
「糖尿病の診断基準に用いられる『HbA1c』値は、高齢になれば7~8%でコントロールした方がいい。健康診断では6.5%以上で糖尿病の疑いがあるとされますが、下げすぎると低血糖で倒れるリスクがあります」(和田さん・以下同)
BMIも同様だ。
「25以上なら『肥満』と分類されますが、大規模調査で25~30未満の人がもっとも長生きだと判明しています。何よりおかしいのは、メタボ健診(特定健康診査)における『腹囲』の測定です。メタボの診断基準のひとつですが、男性85cm・女性90cm以上は内臓脂肪型肥満とされる。それではあの大谷翔平選手も、ただ体格がいいという理由だけでメタボ扱いされてしまう」
《中性脂肪》基準値に明確な根拠はない
中性脂肪の基準値は空腹時30~149mg/dLと定められているが、値に明確な根拠はないという。
「1000mg/dLを超えると急性膵炎になる可能性があるので、すごく高い人は薬で下げる必要がある。しかし、200~300mg/dL程度であればリスクは少ないです」
そもそも数値の背景には個人差がある。一律に捉えること自体が誤りだと指摘するのは、医療経済ジャーナリストの室井一辰さんだ。
「同じ体重・身長でも、ただ太っているだけの人と筋肉質の人では中身が違う。健康度合いには体質や年齢も関係してくるので、すべてを同じ基準だけで判断するのは不自然です」

血圧もまた、数値の裏には年齢や生活環境、持病などがあり、必ずしも基準値を超えたからといってすぐに薬を服用するのが正しいとは言い切れない。それでもなお不安になる人は多い。東京都在住のNさん(58才)が言う。
「健診で血圧が高いと言われ、降圧剤をのみ始めました。家でよく測るようにしており、少し血圧が高いときに動悸を感じて病院に行きました。問題ないと言われましたが毎日不安で、気になるとすぐ測るようになり、血圧計が手放せません」
Nさんのように不安になる人は珍しくない。だが数値にこだわりすぎることが健康を害する恐れもある。
「逆にストレスがたまりすぎると免疫が低下し、がんになるリスクも高くなる。塩分や糖質をがまんしてストレスをためすぎるのもよくない。基本的に年を重ねるほど、数値を下げることによる弊害が大きくなると考えてほしい」(和田さん)
健康のための努力が、かえって健康を遠ざけていることもあるということ。
「健康を気にしてサプリメントに手を出す人もいますが、紅麹サプリで健康被害が生じたように思わぬ事態になることもある。OECD(経済協力開発機構)の調査で『自分を健康だと思うか』という問いに『健康だと思う』と答えた割合が日本人は約3割で、加盟国中最下位だった。日本は世界トップクラスの長寿国ですが、なぜか国民は“世界一不健康”だと思い込んでいる。厳しい基準値により健康不安を植え付けられているといえるでしょう」(大櫛さん)
基準値設定の裏には、医学や製薬業界の思惑があることも忘れてはいけない。
「厳しい基準値を設定して生活習慣病の治療を行うことで一部の医療機関や業界が利益を積み増している側面がある。基準値でスクリーニングして治療することで助かる命があるのは事実ですが、数字だけで判断すると、健康な体に無駄な薬を投与することにもなる」(室井さん)
基準値の意味を改めて考えることが、本当の意味での健康管理になるのだ。

(了。前編を読む)
※女性セブン2025年10月30日号