鹿がのんびりと寛ぐ名勝「奈良公園」。その中に昨年6月、スモールラグジュアリーリゾート「ふふ 奈良」が開業しました。
全30室の小さな宿はオールスイート仕様で、オリンピックのメイン会場である「国立競技場」を手掛けた隈研吾氏が建築設計したことでも話題に。実は私の実家は奈良。ずっと気になっていた宿に、コロナのワクチン接種が済んだ母と久しぶりに再会するべく訪れました。
旅行ジャーナリスト村田和子が、奈良の歴史・文化を五感で味わう旅を紹介します。
漆黒の外観は墨がテーマの吉野杉。館内には木々が溢れる
隈研吾氏といえば、木をふんだんに用いることで知られますが、「ふふ 奈良」は、外観に奈良県吉野の杉を利用。
「大和張り」や「奈良格子」など伝統的な建築技法が用いられ、古い町並みさながらのノスタルジックな雰囲気が漂います。
調度品やアメニティなど館内のトーンは、奈良の伝統工芸でもある「墨」をモチーフにし、黒やグレーなど落ち着いた雰囲気。ほのかに漂う香も、墨の香りをテーマにしているとか。凛とした神聖な空気が漂い、暑さで滴る汗もひき、心がすぅっと落ち着くのを感じます。
デザインの違う客室はプライベート感を重視し、コロナ禍でも安心
2階建ての建物は、春には桜、今は青モミジの緑が美しい中庭を囲むように建てられています。
5つの客室タイプはすべてスイートルームで、コンパクトな客室でも70平米以上と広々。30室ある客室は、すべてインテリアや調度品などデザインが異なるというから驚きます。今回は、1階のシックな雰囲気の「プレミアムコーナースイート」へ。
広いテラスには、客室専用の露天風呂とデイベッドがあり、リゾート感にテンションアップ!竹林の緑に囲まれたテラスが気に入った様子の母と、まずは屋外のデイベッドでお茶をしながら語らいのひととき。
テラスの露天風呂も
テラスの露天風呂には、なみなみと温泉が満たされていて、「温泉は入りたいけれどコロナ禍が心配」というかたも、これなら安心。
安心といえば、「ふふ 奈良」では、部屋への届け物(新聞など)は、対面ではなく、廊下と客室の間にあり、両方からアクセスできるBOXで受け渡しをします。
コロナ禍で非接触がトレンドとなっていますが、プライベートな時間を大切にする「ふふブランド」では、以前からのスタイルとのこと。何かを頼んだ際も、お化粧を落とした部屋着姿で扉を開けるのを躊躇することが多かったのですが、これならノープロブレム。
そして、客室の冷蔵庫に用意されたソフトドリンクやプレミアムビールはフリーでいただけます(一部アルコールは有料)。そのラインナップは、奈良に縁のある私もニンマリとしてしまうほど。
「瑜伽山(ゆうがやま)園地」を散策しながら夕食へ
夕食は、竹林の散策をしながら、レストランの「日本料理 滴翠(てきすい)」へ。
一帯は明治・大正期に活躍した実業家山口吉郎兵衛氏の別荘があった地で、著名人も訪れ、茶の湯を通じて様々な交流があった場所だといいます。
奈良に住む母も「こんなところ知らなかったわ」という通り、コロナ禍中にひっそりとオープンした穴場のスポットともいえそうです。
体の中から健康になれる食事が楽しめる
「滴翠」で通された席からは、瑜伽山園地を臨み、景色を楽しみながら夕食が始まります。旬、そして大和野菜など地元の食材を取り入れた日本料理には、漢方発祥の地ともいわれる奈良の和漢植物や和ハーブも使っていることで、体の中から健康になれる食事ということで楽しみ。
料理のスタートには、食欲を促すという甘茶を頂き、目にも鮮やかな前菜が鹿をあしらった器に盛られ運ばれてきます。
小鍋は、旬の鱧(はも)、大和丸茄子などに、薄茶の小さなキューブ状のものは古代のチーズといわれる蘇(そ)。存在は知ってはいましたが、食したのは初めてです。
月ごとに変わる料理は前菜、お椀、造り、鍋、箸休め、焼き物と進み、〆のご飯は、飛鳥産の無農薬米「ひのひかり」。
個室で親子水入らず、気が付けば2時間以上かけてゆったりとご飯をいただいていました。「ふふ 奈良」のバトラー(スタッフ)の細やかな心遣いに、高齢の母もリラックスして久しぶりの外での食事を堪能。
薬湯でリフレッシュ
就寝前には、スパの貸切風呂(有料)を利用することに。客室のお風呂とは異なる特性の生薬をつかった薬湯は、発汗作用があり疲れが緩和されます。そして、なんといっても翌朝の肌の整い具合にびっくり! 薬湯は、お土産としても販売されています。
早朝の奈良公園を散策。具だくさんの味噌汁に茶粥の朝食でほっこりと
朝食前に、ひとり奈良公園の鷺池に浮かぶ浮見堂まで散策へ。夏の奈良は蒸し暑く、マスクをつけて日中の散策は避けたいもの。まだ涼しい朝一番なら、人も少なく爽やかな空気の中で自然を満喫できます。
朝食は、大和当帰、はちみつなどが入った緑豆のスムージーからスタート。
大和野菜たっぷりの具沢山のお味噌汁に、ご飯は釜炊きで炊きたてを。おかずはご飯のすすむものばかりで、つい食べ過ぎてしまうほど。
「久しぶりに美味しい料理を食べて、温泉でゆっくりとして、あなたにも会えて…」と、表情が明るくなった母の姿に、やはり旅は人を元気にするのだと実感します。
奈良の魅力が満載の館内は五感を刺激し、小規模でゆったりとしたラグジュアリーな宿は密とも無縁。遠方からはもちろん、近場からのおこもり滞在にも。また、久々に旅を再開するかたも安心して滞在できます。次回は、季節を変えて夫と再訪? いや1人もいいなあ…と思いつ宿を後にしました。
チェックアウト後は寺巡りに加え、ユニークな魅力も満喫を
周辺は、東大寺や新薬師寺、ならまちなど、奈良の主要スポットも徒歩圏内。チェックアウト後は荷物を預けて新旧の魅力をお好みで満喫してみてはいかが? 最後に近隣の私のおすすめ穴場スポットを紹介します。観光のラインナップに加えてみてくださいね。
史跡 頭塔
徒歩数分の史跡「頭塔」は奈良時代に建てられたもの。一見の価値あり(※見学には事前予約が必要)
空気ケーキ
ふわふわの独自の食感にコロコロとしたフォルムの店名と同じ名前の「空気ケーキ。」がイチオシ。「ふふ 奈良」からも歩いてすぐです。
奈良国立博物館(仏教美術資料研究センター)
博物館の展示はもちろん、建築としても楽しめる奈良国立博物館。私の穴場おすすめは附属の仏教美術資料研究センター。
【DATA】
■ふふ 奈良
住所:〒630-8301 奈良県奈良市高畑町1184-1
アクセス:近鉄奈良駅・JR奈良駅より市内循環バス等で「破石町」下車すぐ(近鉄奈良駅からタクシーで5分)
料金:2名1室ひとり3万8500円~(税・サ込)/1泊2食付き
https://www.fufunara.jp/
教えてくれたのは:旅行ジャーナリスト・村田和子さん
旅行ジャーナリスト。「旅を通じて人・地域・社会が元気になる」をモットーに、旅の魅力を媒体で発信。宿のアドバイザー・講演なども行う。子どもと47都道府県を踏破した経験から「旅育メソッド(R)」を提唱、著書に「旅育BOOK~家族旅行で子どもの心と脳がぐんぐん育つ(日本実業出版社・2018)」。現在は50歳を迎え、子どもも大学生となり、人生100年時代を楽しむ旅を研究中。資格に総合旅行業務取扱管理者、1級販売士、クルーズアドバイザーなど。2016年よりNHKラジオ『Nらじ』月一レギュラー。トラベルナレッジ代表。(https://www.travel-k.com/)旅ブログも行っている。(http://www.murata-kazuko.com/)
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