現実から逃避してゆっくりしたい…そんなときは、のんびり列車旅がおすすめです。車窓から絶景が楽しめるのならいうことはありません。
今回は、旅行ジャーナリストの村田和子が、知る人ぞ知る、日本海の絶景がひろがる観光列車「〇〇のはなし」に乗り、注目の山口県「長門湯本温泉」へ。星野リゾートが温泉街の再生を初めて手掛けた地は、5年が経過し、新たな姿へ生まれ変わっています。
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観光列車「〇〇のはなし」。出発は歴史と文化あふれる「下関」
新幹線で西へと向かい、降り立ったのは山口県の下関。本州の最西端へ位置し、関門海峡をはさんだ門司港(福岡県)へは関門連絡船で5分の近さ。大陸にも近く、古より交通の要所として栄えた下関は、歴史・文化にあふれ散策が楽しい街で、私の好きなレトロ建築もたくさんあってワクワクします。
JR西日本×長門湯本温泉×「星野リゾート 界 長門」のコラボ!特別運行の観光列車を愉しむ
「〇〇のはなし」という変わったネーミングに、驚かれるかたも多いのでは? 実は「はなし」は、運行する、萩(はぎ)長門(ながと)下関(しものせき)の頭文字をとったもので、さまざまな沿線の魅力に触れ、思い出を持ち帰ってほしいという願いが込められているといいます。
新下関駅から終点の東萩駅までは3時間弱、今回の目的地である長門湯本温泉へのアクセスに便利な「長門市駅」までは2時間20分ほどの列車旅です。
1号車は和風、2号車は洋風のあつらえ。下関を出発すると、町から緑が濃い田園風景、やがて海沿いを走り始めます。
「〇〇のはなし」は、普通乗車券に座席指定券(530円)をプラスすれば乗車OK。ただし全席指定なので、予定が決まったら早めに予約をお忘れなく。
今回、私は、「星野リゾート 界 長門」、JR西日本、長門湯本温泉まち株式会社がタイアップした特別運行の観光列車「ゆずきち号」で長門に向かいました。「ゆずきち」とは長門で多く作られている柑橘類の名称。利用している車両は「〇〇のはなし」と同じですが、ゆずきち号は、特別なおもてなしが用意されているのが特徴。さっそく乗った瞬間に柑橘の甘い香り…ゆずきちをはじめ柑橘をブレンドしたオリジナルの香りが車内に漂っていました。
特別なおもてなしの中で、驚くのが、旅館のスタッフが車内でサービスをしてくれること。和のしつらえの1号車は長門湯本温泉の老舗旅館「大谷山荘」の着物姿のスタッフが、洋のしつらえの2号車は、「界 長門」のスタッフが制服で出迎え、サービスを担当します。
車内では、「ゆずきち号」のために作製したオリジナルの器で、ゆずきちをテーマにした菓子などのアフタヌーンティーが提供されます。移り行く景色を眺めながらのティータイムは格別です。
オソト天国!思わず散策したくなる長門湯本温泉
長門市駅に到着したらタクシーで温泉街へ。長門湯本温泉は音信川(おとずれがわ)を中心に、両岸に旅館やお店が並んでいて、浴衣でのそぞろ歩きが似合います。「オソト天国」というコンセプトにも納得。一角には出来たばかりという、白いパラソルがおしゃれな川床もあって、さまざまに楽しめます。
昨年オープンの温泉旅館「界 長門」は、藩主の御茶屋屋敷がテーマ
街の再生を担う星野リゾートは、昨年3月に温泉旅館「界 長門」をオープン。フロントとは別に、音信川に向かい大きな暖簾がかかった宿泊者専用の「あけぼの門」があり、その脇には外来利用OKの「あけぼのカフェ」があります。
館内のテーマは、藩主の御茶屋屋敷。藩主が湯治にきて寛ぐように過ごしてほしいと、上質なしつらえが随所に感じられます。それでいて庭園の木々は綺麗に整えすぎないように剪定し、武士が好んだ野趣あふれる雰囲気を大切にしているともいいます。
各客室には、萩焼の作品が飾られ、入り口のサインには萩ガラスを採用するなど、ご当地感が満載です。
星野リゾートの温線旅館ブランド「界」では、その土地の文化を感じられる「ご当地楽」という催しが各宿で用意されています。界 長門では「おとなの墨あそび」として伝統工芸である赤間硯で墨をすり、扇形の型紙に思いをつづる体験がご当地楽として用意されています(宿泊者限定・体験無料)。
何十年ぶりかに墨をすりましたが、墨のいい香りが漂い、筆をもてば姿勢も自然とよくなります。集中することで、気持ちも凛とし、終わった後はすっきり。ストレス解消にもおすすめです。
長門湯本温泉のシンボル。リニューアルした「恩湯」はぜひ訪れたい
宿でも十分に温泉は楽しめますが、ぜひ訪れてほしいのが外湯である「恩湯(おんとう)」。外観はシンプルかつ木目が美しい周りの自然と調和するスタイリッシュなデザイン。
ところが浴槽のある一角は、雰囲気が全く違い、歴史を感じる神聖な空気につつまれています。岩盤から流れ出た温泉をためて、湯船に供給される作りで、リニューアルに伴い、浴槽の下から温泉が湧き出る「足下湧出泉」も加わったそう。深い浴槽に身を沈めれば、なんともいえない有難い気持ちになり、身も心も清められるようです。
帰りは無人駅「長門湯本駅」から。一両編成・単線の列車で山陽新幹線「厚狭駅」へ
関西・首都圏方面へ戻る山陽新幹線の駅まで、あえての鈍行列車の旅を選択。温泉街に一番近い長門湯本駅へ到着すると、なんと無人駅!駅までお願いしたタクシーの運転手さんいわく「この辺は無人駅がほとんどだよ」と。
JR美祢線は、昼は2時間に1本程度。列車を乗り過ごさないか、どきどきしながら待ちます(地方では扉を自分で開けるなど、勝手が違うことが多く、毎回緊張します)。
時間になると1両編成のおもちゃのようなかわいらしい列車がやってきました。扉はコロナ禍だから? 自動で開き、整理券をとって無事に乗車できました。地元の方に交じって1時間ほど緑深い山の中をすすみ、山陽新幹線への乗り換えとなる厚狭駅へ。
長門湯本温泉からは、山陽新幹線新山口駅までジャンボタクシーもあります。急いでいる場合や荷物が多いときなどは、便利です。
ネクストステージが楽しみ。あの憧れのスポットへも足を延ばせるかも?
私も一度訪れたいと思っている「元乃隅神社」も、実は同じ長門市にあります。車なら温泉街から30分ほどだといい、秋吉台、萩などの観光も、車なら便利な立地です。
でも車移動ができないとなると…現状は公共交通機関でのアクセスが難しく、ハードルが高くなるのがとても残念。遠方からだと「どうせなら観光も!」と欲張りたいときもあります。
この点について長門湯本温泉まち株式会社のエリアマネージャー・木村隼斗さんは、「温泉街の再生は、やっとハードの整備が整ったところ。これからは二次交通や来てもらうための施策をすすめます。アクセスについては、電動自転車を貸し出すなど、秋にもさまざまな取り組みを予定しています」と語ります。
長門市、星野リゾートのタッグに、JR西日本や地元の方も協力して、魅力造成を進めていくとのこと。大きく生まれ変わった温泉街ですが、進化はまだまだ続くよう。この先も楽しみで目が離せません。
【DATA】
■〇〇のはなし(JR西日本)
※ゆずきち号については、次回は9月8日。旅行会社の商品として販売。その後については検討中。
https://www.jr-odekake.net/railroad/kankoutrain/area_hiroshima/marumaru_no_hanashi/
https://digitalpamph.nta.co.jp/zip0030/book/#target/page_no=1
■長門湯本温泉
公式HP参照
https://yumotoonsen.com/
■星野リゾート 界 長門
住所 〒759-4103 山口県長門市深川湯本2229-1
アクセス:JR美祢線長門湯本駅 下車徒歩15分、山陽新幹線新山口駅からジャンボタクシーで60分
価格:2名1室ひとり2万5000円(税サ込)~※1泊2食付き
https://kai-ryokan.jp/nagato/
◆教えてくれたのは:旅行ジャーナリスト・村田和子さん
旅行ジャーナリスト。「旅を通じて人・地域・社会が元気になる」をモットーに、旅の魅力を媒体で発信。宿のアドバイザー・講演なども行う。子どもと47都道府県を踏破した経験から「旅育メソッド(R)」を提唱、著書に「旅育BOOK~家族旅行で子どもの心と脳がぐんぐん育つ(日本実業出版社・2018)」。現在は50歳を迎え、子どもも大学生となり、人生100年時代を楽しむ旅を研究中。資格に総合旅行業務取扱管理者、1級販売士、クルーズアドバイザーなど。2016年よりNHKラジオ『Nらじ』月一レギュラー。トラベルナレッジ代表。(https://www.travel-k.com/)旅ブログも行っている。(http://www.murata-kazuko.com/)
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