ライター歴43年のベテラン、オバ記者こと野原広子(65歳)が、介護を経験して感じたリアルな日々を綴る「介護のリアル」。昨年、茨城の実家で母親を介護し、最終的には病院で看取ったオバ記者。今回綴るのは、母親の介護をきっかけにトラブルになったある姉妹についてのルポです。介護が浮き彫りにしたその関係とは――。
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「遺産なんかないからね」と言った姉
「帰省介護した? 長女らしいねえ」
先日、数年ぶりに会った友だちのK子(64歳)から突き放すようにこう言われたの。
「きょうだいとトラブらなかった?」とも。
その口調から彼女の実姉に対する不満がパンパンに膨らんでいるのが手にとるようにわかる。プチンと針を刺したら、まあ、大爆発! 女きょうだいのいない私はドロドロの闘いにあ然としっぱなしだった。
K子は東海地方のある町の出身だけど、ずっと東京で一家を構えている。実家では長女である姉(68歳)が婿養子の夫と、成人した娘ふたりと暮らしている。
「2年前の秋、母親が寝たきりになったと聞いて駆けつけたら、姉から『遺産なんかないからね』ってケンカ腰で言われたのよ。すでに病院に入っている91歳の父親の入院代と、要介護3の母親の自宅介護費用で月に50万円かかると言う。
母親も入院させるとそれ以上のお金がかかるから『私が仕事の合間に介護するしかないのよ』と言うから、『お姉ちゃん、大丈夫なの?』と聞いたら、『大丈夫もなにも、お母さんのこと、誰が面倒みるのよ!』って」
姉妹名義だったマンションを売ることに
で、怒りながら、「ここにサインしてよ」って、マンションの売買契約書を差し出してきた。
「両親が私と姉の半々の名義で買っておいてくれたのを売るっていうの。コロナ禍だしお金に困っているのかと黙ってサインをしたわよ」
問題はそこからだ。「両親の介護費用が月に50万円かかる」と聞いたけれど、50万円×12か月=年間600万円。これだけの費用を払える人ってどれだけいるのだろう。
それからマンションはいくらで売れたのか。プツンと連絡の途絶えた姉に電話をしたら、「決まったら話すよ」と。具体的な介護費用を聞いても「月によって違うから」とあいまい。
「昔から姉は自分がしたい話ならいつまでもしているけど、都合が悪くなるとキレる。特にお金がからむと人が変わったようになるから、そうなる前に電話を切ったけれど、どうしても気になる。それで週末に片道3時間半の実家に車を走らせたら家には誰もいなかったの」
出掛けに姉のスマホにLINEを送ったけれど、既読にならない。心配しながら外で待っていたところに姉たちが帰ってきた。
「私の顔を見てギョッとしていたわよ。顔がてかてかしているから『温泉?』って聞いたら『あんたに言われる筋合いはない!』と例によって激怒。『お母さんは?』と聞くと『認知症が始まって手に負えないから施設に入れたわよ。あなたに言ってからとも思ったけど、言っても何も変わらないでしょ。どうせ何もしないでしょ』とまくし立てられたの。
家の中を見回したら、真新しいシステムキッチンに高そうなソファがでーん。お母さんが寝ていた和室はリビングに変わっていた。マンションを売ったお金で買ったのよね。それを私に突かれたくないから、怒って怒鳴って煙幕を張っているの」