ユーミン、アリス、チューリップ……2022年、大物アーティストが続々とデビュー50周年を迎えました。1970年代から新御三家の一人として華々しく活躍した郷ひろみもめでたくデビュー50周年。1980〜1990年代のエンタメ事情に詳しいライター田中稲さんが、来たる年末のNHK紅白出場に思いを馳せつつ、その名曲の数々を綴ります。
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郷ひろみさんがデビュー50周年である。郷ひろみさんといえば、ジャケットプレイ&限りなくアグレッシブなパフォーマンス。日本人離れしたカーニバル・オーラは唯一無二だ。エキゾチックジャペアオオン(『2億4千万の瞳』)、アチチ(『GOLDFINGER’99』)、1・2・サンバ(『お嫁サンバ』)──。文字にするだけで彼のシャウトが聞こえてくるというすさまじいパワー! しかし、郷ひろみさんは浮かれソングの第一人者であると同時に、類稀なる哀愁の表現者でもある。このバランスの絶妙さこそ、揺るぎない人気の要因だ。
その憂いはどこから来るのだろう。彼の声に残る少年の香りが、「手に届くまでの、あとわずかの距離」を感じさせるのかも。ストレートな失恋とは違うもどかしさ。その場は笑って済ませつつ、陰で「もっと真剣に僕を見て……」とため息をつくようなイメージである。
恋愛哲学が詰まった『よろしく哀愁』
10thシングル『よろしく哀愁』は、1曲丸ごと恋愛哲学みたいな超名曲である。特に「会えない時間が愛を育てる」という定義は、今や遠距離恋愛者の標語として一般認知されているほど。これを甘い声でゆらりと揺れながら歌う彼の姿は、まさに動くメランコリック!
私が猛プッシュしたいのは『タブー(禁じられた愛)』『純情』『若さのカタルシス』の一気聴き。「恋、それは罪深き幻……」とその尊く切ない世界にどっぷりハマることができる。『タブー(禁じられた愛)』は、ジャケ写の手首まで入りそうなアフロヘアも素晴らしい。私は郷ひろみのアフロが本当に好きだ。アフロに哀愁が詰まっていると言っていい!
1982年の『哀愁のカサブランカ』『哀しみの黒い瞳』という洋楽のカバー2連発は、郷ひろみの洗練されたイメージに仰天した覚えがある。
1993年から1995年にリリースしたバラード三部作『僕がどんなに君を好きか、君は知らない』『言えないよ』『逢いたくてしかたない』は、多くの不器用な大人たちの恋愛の背中を押したのではないだろうか。
鼻にかかった声が、泣くのを我慢しているように感じるときもあり、まさに哀愁の洪水! 「好かれてはいるんだろうけど、求めているのは、そういう種類の『好き』じゃない……」。そんな片思いに苦しんでいる人は、これらの郷ひろみ哀愁曲をぜひ聴いてほしい。一瞬余計に苦しくなりはするが、限界を超え妙なアドレナリンが出て、心地良くなる。哀愁のランナーズハイ!!