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『風のエオリア』で完全に恋に落ちた…徳永英明の「歌いながら泣いているような」歌声が持つ不思議な響き

『輝きながら…』に続く5枚目シングル『風のエオリア』(1988年)
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1986年のデビュー以来、シンガーソングライターとして数々のヒット曲を世に送り出しながら、2000年代からは女性アーティストの名曲をいくつもカバーし話題となった徳永英明(61歳)。今年2月には、東京・大阪で開催の「中島みゆき RESPECT LIVE 2023 歌縁(うたえにし)」にも出演。そんな彼の歌声が持つ独特の魅力について、ライターの田中稲さんが綴ります。

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もうすぐ花粉の季節。今年は昨年に比べ2倍以上の飛散になる予想の地域もあるらしい。こりゃもう、音ばかりで何も吸い取らなくなった空気清浄機を買い替えねば……。そう意を決め家電量販店に赴いた際、エアコンのゾーンでオロオロしてしまった。Panasonicの商品「Eoria(エオリア)」が目に入ったとき、私の口から、あまりにも自然に1985年の徳永英明さんのヒット曲『風のエオリア』のサビが口から飛び出したのである。

脳の奥に眠っていた歌詞が無意識に飛び出す──。こういった記憶のガチャポン現象は頻繁に起こる。そしてこの現象は、思い出した歌とアーティストの素晴らしさを再確認するのに、じゅうぶんすぎるほどの威力を持つ。

おかげで私は家に帰り『風のエオリア』を数十回にわたりループすることになった。

いくつもの不思議な響きから織りなされる歌声(写真は2006年、Ph/SHOGAKUKAN)
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「女性の感情も同時に聞こえる」徳永英明の声

徳永英明さんは、私が勝手に選んだ「神様から与えられし声を持つアーティストベストテン」に入る。歌いながら泣いているように聴こえる、男性の声だけど、女性の感情も同時に聞こえる。夜が明ける前のギリギリの夜の暗さが見える。そんないくつもの不思議な響きから織りなされた、薄い薄い和紙のような声は他にいない。

あまりにも細かい感情の繊維。そんな特別な声と歌唱力を持つ彼だから、幼くして彗星の如く現われ注目を浴びたと思いきや、デビューは25歳と意外に遅咲き。21歳のときにはオーディション番組『スター誕生!』(日本テレビ)決戦大会にも出演しているが、結果はスカウトゼロ。デビューのチャンスを逃している。

あの声でスカウトゼロとはどういうことなのか。しかも山下達郎さんの名曲『RIDE ON TIME』を歌唱したというではないか。私なら両手両足を挙げてスカウトするが、いやもうスタ誕おそるべしである。

しかし彼はめげず、その後も夢を信じて努力を続け、1986年、『レイニーブルー』でデビュー。彼の楽曲の中でも人気が高く、多くのアーティストにもカバーされている曲だが、当時はあまりヒットせず、オリコンランキング90位止まりだった。いやもう時代の風は本当に気まぐれである。

デビュー曲『レイニーブルー』は発売当時はあまりヒットしなかった(写真は2012年、Ph/SHOGAKUKAN)
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