
犬にとって散歩は健康維持のためにも、ストレス発散のためにも大切なもの。もしも行かない日が続いてしまったら、どのような影響があるのでしょうか。獣医師の山本昌彦さんに聞きました。
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ストレスがたまって問題行動を起こす場合も
愛犬との散歩は、犬にとっても飼い主さんにとっても楽しいひととき。ただ、仕事が忙しくて時間が取れない、とても疲れている、気温が低くてつらい、などさまざまな事情で“行くべきだけど気が進まない”ときもあるのではないでしょうか。そんなときは、犬にとって散歩がどんなに大切なものか、思い起こしてみるといいかもしれません。
山本さんは「犬は散歩が好きな子がほとんどです。ですから、散歩を怠って真っ先に影響が出てくるのはメンタル面。ストレスがたまって自分の足を舐め続けたり、ガジガジ噛んでしまったり、手近な物を壊してしまったりする子もいます」といいます。
1日たった30分でも、犬にとって散歩はとっておきの時間
散歩は可能なら1日2回に分けるといいですが、時間をつくるのが難しい場合は1日1回にまとめてもOK。大型犬なら合計1~2時間、中型犬なら合計40~60分、小型犬なら合計30分程度が目安になります(※体格や年齢、健康状態などによって変わります)。

1日たった30分でも、犬にとって散歩はとっておきの時間です。例えば1日、散歩に出られなかっただけでイライラを爆発させるトイプードルもいます。おもちゃを、まるで獲物をしとめようとする勢いで激しく振り回す姿を見て、飼い主さんも鬼気迫るものを感じたのだとか。
「外の空気に触れたり、自宅にないニオイを嗅いだりするのは、犬にとって刺激的で興味深いことなんです。おそらく私たちが思う以上に、犬って散歩を楽しんでいるんですよ。そのことを忘れないようにしたいですね」(山本さん・以下同)
糖尿病や膀胱炎、関節炎のリスクが上昇
犬の散歩不足は、身体にも影響するといいます。
「散歩に行かないことが増えたり、行かない期間が延びてしまったら、運動不足になって、体力・筋力の低下や肥満の原因になります。肥満は糖尿病や高血圧、脂肪肝、心臓疾患などにつながりやすいので、愛犬の体型、体重は飼い主さんがコントロールしてあげるべきですね」
また、自宅では排泄せずに、散歩で外へ出たときに排泄する習慣を持つ犬もいて、そういう犬は散歩の機会が減ると、排泄の機会も減ってしまうことになります。
「トイレを長時間我慢すると、泌尿器疾患のリスクが高まります。膀胱に細菌が入った場合に繁殖しやすくなって、細菌性の急性膀胱炎になったり、尿の中の成分が結晶化して尿路結石症になったりするのです」
体を動かさなくなることで、関節を傷めるリスクも
さらに、体を動かさなくなることで、関節を傷めるリスクも上がってしまうそうです。

「特に冬場、体を動かさずにいると血行が悪くなって体がこわばります。運動不足で、関節を覆う筋肉量も落ちている場合、久しぶりの散歩で走ったりすると、関節にいきなり大きな負荷がかかってしまい故障を生じます。冬は脚に通っている末梢神経が過敏になるので、痛みの感じ方も甚だしくなってかわいそうです。関節炎を予防する意味でも、適度な運動は欠かせません」
雨などで行けない日はどうしたらいい?
そうはいっても、散歩を休まざるをえない日もあるでしょう。例えば、雨が強く降っているとき。雨のなか、散歩に出かけると、戻ってから濡れた背中や脚、泥ハネを受けたお腹などを拭いてあげるといったケアが必要になります。そもそも濡れるのを嫌う犬もいますし、寒さに弱い犬種もいるので、体調を崩す場合もあります。
実際に、自宅でも排泄できる犬に関しては、雨が降ったら散歩は取りやめる飼い主さんも多いようです。では、散歩に行かなかった日に、飼い主さんは愛犬をどうフォローしてあげるといいのでしょうか。
「散歩に行かない理由が雨なら、キャリーに入れて運んだりドライブしたりして、散歩とは違うけれど濡れない形で外出して気分転換だけでもさせる手はあります。
自宅でできるフォローの方法としては、やっぱり犬のストレス解消が中心になります。スキンシップをしたり、おもちゃを使って一緒に遊んだりするのがいいですね。ボール遊びや引っ張りっこ遊びをすると、運動不足もある程度はカバーできます」
散歩ができないのは犬にとってガッカリすることなので、なるべく散歩は毎日欠かさずに。行けない日は別の手段でフォローして、愛犬の心身の健康をキープしたいものですね。
◆教えてくれたのは:獣医師・山本昌彦さん

獣医師。アニコム先進医療研究所(本社・東京都新宿区)病院運営部長。東京農工大学獣医学科卒業(獣医内科学研究室)。動物病院、アクサ損害保険勤務を経て、現職へ従事。https://www.anicom-sompo.co.jp/
取材・文/赤坂麻実
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