「金」の売買履歴書が…
「だけど悪いことってできないのよね。母親が亡くなってすぐ、姉の家に行ったら『金』の売買をする会社からの封書がポンと置いてあったのよ。何だろうと見たら売買履歴の伝票で、そこには10万円金貨と20万円金貨が10数枚と、外国の金貨が数枚で手数料を引いた額が290万円!」
それだけじゃない。数日前に姉はいくつもあった金のネックレスとか指輪を私に見せて「どうする?」というから、「使うならお姉ちゃんが持っていれば」と言ったら、「あら、そう」とさっさと持っていったそうな。
「金貨は父親が集めたんだよね。買ったとき『高値になったら売るんだ』と言って家族に見せていたけど、そのうち父親はがんで亡くなり、金貨のことはすっかり忘れていた。それを思い出した姉が見つけて売っぱらったのよ」
Tさんが問い詰めると姉は最初、「なんの話よ」とすっとぼけていたけど、最後は認めて「こういうものは見つけた人のものよ!」と開き直ったそうな。
「あんまりだから売買履歴を握って、『窃盗で訴えてやる』と言ったら、『これをあなたが売ればオアイコでしょ』と母親の形見の貴金属を投げつけてきたの。姉はみんな売ってお金にしようとしていたのよね」
こうして母親の形見はTさんのものになったけれど、後味の悪さだけが残った。Tさんはそれきり姉との音信は必要最低限度になったそうな。
「おかしな話だけど、物心ついてから姉との関係がいちばん良好になったのは、姉が金貨を売って金まわりがよくなっていたときなのよね。めったにおごってくれなかったけれど、ずっと笑っていた印象。それをどこかでヘンだと思いながら、お姉ちゃんも年をとって丸くなったのかなと私は私で都合よく解釈していたんだと思う。今、あの時、姉はお腹の中で何を考えていたかと思うと、できれば会いたくないよ」
Tさんはそう言って話を締めくくった。