
季節の変わり目は、日々の気温差に自律神経による体温調節が追いつかず、風邪を引きやすくなります。犬にも風邪のような病気はあるのでしょうか? かかりやすい季節って? 獣医師の内山莉音さんに教えていただきました。
犬の風邪はケンネルコフ
人間と同様に、犬にも風邪のような病気があります。内山さんは「くしゃみ、鼻水、咳、発熱、頭痛、食欲不振などの比較的軽微な症状がいくつか出るのが、いわゆる風邪(風邪症候群)ですが、犬で風邪に相当する病気にはケンネルコフというものがあります」と話します。
「ケンネル(犬舎)」。すなわち、犬が集まる場所などで感染しやすいという意味でこの名前がついたケンネルコフ。犬伝染性気管気管支炎とも呼ばれ、主な症状は呼吸器症状です。

「くしゃみや鼻水、咳、目やになどが分かりやすいと思います。ひどくなると熱が出て元気がなくなってごはんも食べなくなったりしますね。咳をしすぎて吐いてしまうことがあるのも、人間と同じです」(内山さん・以下同)
インフルエンザに相当するような病気は犬にはない
ちなみに、インフルエンザに相当するような病気は、犬にはないようです。インフルエンザは、風邪よりも高い発熱や、全身症状(関節痛、筋肉痛、倦怠感)があるのが特徴ですが、「人間のインフルエンザが犬に伝染したという症例も、国内では報告されていませんので、その点は安心していいと思います」とのこと。
ケンネルコフが人間に伝染することもないので、犬が風邪をひいても感染に対する警戒は不要。しっかりお世話をしてあげたいですね。
ワクチン未接種の子犬がかかりやすい
人間の風邪は、ウイルス感染によって発症しますが、ケンネルコフの原因はウイルス以外にもあります。
「犬パラインフルエンザウイルスや犬アデノウイルス2型などのウイルスのほかに、気管支敗血症菌(ボルデテラ菌)やマイコプラズマなどの細菌・微生物が原因になることもあります。これらの病原体のうちの一つまたは複数に感染して、ケンネルコフにかかります」
人間と違って、季節の変わり目に多い病気というわけではない点にも注目したいところです。
「季節に関係なく、1歳未満の子犬に多い病気です。犬には狂犬病ワクチンの接種が義務付けられ、混合ワクチンの接種も強く推奨されていますが、親からもらった免疫がなくなって、ワクチンをまだ接種していない時期の子犬は、ケンネルコフにかかりやすいですね」
免疫力が十分でない子犬は要注意
犬種によって罹患率に偏りはなく、どの犬種でも免疫力が十分でない子犬の間は要注意とのことです。アニコム損保のデータによれば、罹患率は0歳犬で2%弱、他の年齢ではいずれも0.1%を切っています。

「特に、子犬を新しく家に迎えたタイミングで発症することがあります。新しい環境に連れて来られて疲れが出るタイミングなので、風邪をひきやすいんです。飼い主さんはびっくりすると思いますが、あわてず騒がず動物病院へ連れて行きましょう」
油断せず早めに動物病院で診てもらおう
動物病院での治療は、服薬が中心です。
「細菌に効果のある抗生剤だったり、対症療法として咳止め、痰を切る薬などを処方することもありますね。喘息の治療などに使われるネブライザー(吸入器)を使ったり、点滴をしたりすることもあります」
内山さんは、「飼い主さんには、早めの病院受診を心掛けてほしい」といいます。

「風邪とはいえ、こじらせるとやっぱり厄介です。治療が遅れると長引いたり重症化したり、なんらかの合併症にかかったりする可能性があるので、早く治してしまいましょう」
人間の風邪薬には犬に与えてはいけない
なお、人間の風邪薬には、犬が摂取してはいけない成分が含まれている場合があるので、犬に与えてはいけません。あくまで、犬用の薬を与えるべきです。ただし、薬をそのまま与えてもほとんどの犬は飲んでくれないので、ご家庭ではフードに混ぜ込んだりして飲ませることになります。
「粉末タイプの薬を処方してもらったり、処方された錠剤をくだいたりして、ウェットタイプのフードに混ぜれば飲んでくれると思います。ドライタイプのフードに錠剤を混ぜただけで飲んでくれる子がいるとしたら……、その子はかなりいい子ですね(笑い)」
薬を与えてしっかり栄養や睡眠を取っていれば、ケンネルコフはさほど怖い病気ではなく、問題なく回復することがほとんどだといいます。早めの受診で、愛犬の健やかで楽しい生活を取り戻しましょう。
◆教えてくれたのは:獣医師・内山莉音さん

獣医師。日本獣医生命科学大学卒業(獣医内科学研究室)。動物病院を経て、アニコム損害保険(株)に勤務。現在もアニコムグループの動物病院で臨床に携わる。
取材・文/赤坂麻実